法律改正で孤立するヤングケアラーへの救済・支援がより一層求められます
令和6年6月12日にヤングケアラー支援・救済に関する法律が施行され、自治体が支援すべき内容が明確にされました。
目次
ヤングケアラー支援・救済の法律施行(令和6年6月12日)
「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の一部施行について、令和6年6月5日に国会で可決・成立し、6月12日公布され、改正法のうち、ヤングケアラーへの支援の強化を図るための子ども・若者育成支援推進法(平成21年法律第71号)及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)第25条の2の改正が、6月12日に施行されました。
これにより、ヤングケアラーの定義が法律で明確にされ、国は自治体にたいして、「ヤングケアラー」の実態を調査し、支援が必要な要支援児を把握し、個別に支援のためのサポートプログラムを対象者ごとに作成し、必要な個別支援を継続的に実施することを求めています。この法律改正で孤立するヤングケアラーへの救済・支援がより一層求められます。
本来は、大人が担うべき家事や育児、介護などの家族ケアを、家庭内で子どもたちが代わって担うことで、友達と遊ぶなどの子どもらしい生活ができない、料理や洗濯などの家事に時間を要して、睡眠時間が少なく遅刻や欠席が増えるなどで学業に専念できなくなります。さらには親御さんが病気療養などで、就労が困難な場合には経済的な理由も重なり、全日制高校への進学を諦め通信制高校に編入するなどで、将来の夢を断念せざるを得ない状況となります。そのため、将来にたいする絶望と閉塞感で精神的に追い込まれたり、生きる希望をなくすことがないよう、国・自治体によるモレのないきめ細かな公的機関のサポート、および地域住民による理解と協力が求められています。
この改正法によって、これまでは自治体によってバラバラであった支援実態が、今後は全国自治体による統一的でモレのない支援制度の構築へと一歩が踏み出されたことで、ヤングケアラーへの支援の強化が図られることに期待ができます。しかし、将来を担う子どもたちを誰一人として取残さないためには、今後の自治体による支援状況を継続して注視してゆくことが必要です。
参考引用情報:ヤングケアラー関連情報サイト(こども家庭庁)
法改正の概要
こども家庭庁は、令和6年6月12日に「『子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律』の一部施行について」と題して、法改正に対応し周知徹底する旨が、自治体に通達されました。
この「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第47号。以下「改正法」という。)については、本年6月5日に国会で可決・成立し、6月12日に公布され、改正法のうち、ヤングケアラーへの支援の強化を図るための子ども・若者育成支援推進法(平成21年法律第71号)及び児童福祉法(昭和22年法律第164号)第25条の2の改正とあわせて、令和6年6月12日から施行されました。
この改正法によって、これまではヤングケアラー支援が手薄だった自治体についても、今後は全国自治体による統一的でモレのない支援実施と、支援制度の充実に、期待できまるといえます。
参考引用情報(子ども家庭庁):「子ども・子育て支援法等の一部を改正する法律」の一部施行について( 令和6年6月12日)
法改正の主旨
この法改正の主旨は、こども家庭によると、『ヤングケアラーは、家族の世話のために自分の時間が取れないなど、その責任や負担の重さにより学業や友人関係などに影響があることが指摘されており、国においても支援体制の整備等の予算事業の実施や社会的認知度の向上のための広報啓発等の取組を進めてきた。一方で、地方公共団体における取組には引き続きばらつきが見られる等の課題があることから、ヤングケアラーへの支援を一層強化するため、改正法により子ども・若者育成支援推進法等を改正し、ヤングケアラーを関係機関等が各種支援に努めるべき対象として法律上明記する等の改正を行うことで、ヤングケアラーへの支援の普及を図るものである。』とされています。
ヤングケアラーの定義
今回の法改正で、ヤングケアラーの定義が法律上で明確になりました。
法改正では、支援を要する「社会生活を円滑に営む上での困難を有する子ども・若者」として、ヤングケアラーは「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と明記されています。
定義における「過度」にとは本人の心理的・主観的な認識だけでなく、周囲による客観的な判断も必要であり支援対象からモラさない注意が必要でです。
法改正での明記では、『「過度に」とは、子ども・若者が「家族の介護その他の日常生活上の世話」を行うことにより、「社会生活を円滑に営む上での困難を有する」状態に至っている場合、すなわち、こどもにおいてはこどもとしての健やかな成長・発達に必要な時間(遊び・勉強等)を、若者においては自立に向けた移行期として必要な時間(勉強・就職準備等)を奪われたり、ケアに伴い身体的・精神的負荷がかかったりすることによって、負担が重い状態になっている場合を指すものであること。』として、『支援対象であるかの判断を行うに当たっては、その範囲を狭めることのないように十分留意し、一人一人のこども・若者の客観的な状況と主観的な受け止め等を踏まえながら、その最善の利益の観点から、個別に判断していくことが重要であること。』とされています。
また、「家族の日常生活上の世話」には多くの家庭での仕事が含まれており、限定しないことが明記されています。
法改正での明記は、『「家族の日常生活上の世話」には、法文上明示されている「介護」に加え、幼いきょうだいの世話、障害や病気等のある家族に代わって行う家事や労働のほか、目の離せない家族の見守りや声掛けなどの気遣いや心理的な配慮、通訳なども含まれること。』とされています。
ヤングケアラーの対象年齢
子ども期の「18歳未満」に加え、おおむね「30歳未満」を中心とし、状況により「40歳未満」も対象となり得ることを明記され、幅広く対象とされました。
法改正での明記では、『法は、おおむね30歳未満の者を中心として、施策内容によりおおむね40歳未満の者を対象としており、このことはヤングケアラーへの支援についても同様である。具体的にはこども期(18歳未満)に加え、進学や就職の選択など、自立に向けた重要な移行期を含む若者期を切れ目なく支えるという観点からおおむね30 歳未満を中心としているが、こども・若者期にヤングケアラーとして家族の世話を担い、こども・若者にとって必要な時間を奪われたことにより、社会生活を円滑に営む上での困難を有する状態に引き続き陥っている場合等その状況等に応じ、40歳未満の者も対象となり得ること。』とされています。
具体的な支援内容
自治体で実施すべき下記の支援内容が具体的に明記されています。
(1)定期的なアンケート調査や個別訪問による実態把握と関係機関との支援連携のしくみ構築
『学校などと協力して、年一回以上の定期的なアンケート調査などを実施することや、地域の福祉事務所などと連携してこども家庭センターの職員が生活保護世帯などを個別訪問して、子どもが家庭で中心的な担い手となっているヤングケアラーの存在を把握し、緊急性の高い案件の早期把握と関係機関との連携して支援に結びつける仕組み構築を図ること。』(著者要約)
(2)要支援児へのサポートプランの作成
『支援を必要とする要支援児、今後のヤングケアラーとなる可能性のある子どもにたいして、市区町村のこども家庭センター等において、一人一人の児童の置かれた状況や本人の受け止めに応じサポートプランを作成するなどし、具体的な支援等について検討し、明確にすること。』
(3)年齢層に応じた具体的支援
『おおむね15歳以上のヤングケアラーに対しては、18歳以上となった際に頼ることができる支援先(子ども・若者総合相談センターや民間支援団体等)や若者に対する就労支援、地域における若者支援施策等へのつなぎを行ったり、情報提供を行うことをサポートプランに盛り込んだりするなど、本人が 18 歳以上となる若者への移行期を迎えるにあたり必要となる支援内容を想定しつつ、具体的な支援等相談業務、関係機関のリソースを活用して、介護支援や障害者支援などの促進、相談支援、を実施するなど。』
参考情報:「厚生労働省・文部科学省におけるヤングケアラー支援に係る取り組みについて」令和3年3月17日リリース
公的機関による支援のしくみ構築
(1)子ども・若者支援調整機関及び要保護児童対策調整機関の活動強化
『児童福祉法に規定する要支援児童又は要保護児童であるものに対し、子ども・若者支援地域協議会と要保護児童対策地域協議会が協働して効果的に支援を行うことができるよう、各調整機関同士で連携を図るよう努めるものとする。』
(2)子ども・若者総合相談センターの設置促進など
『各市区町村において、子ども・若者総合相談センターや子ども・若者支援地域協議会の設置を一層促進し、18歳以上の子ども・若者総合支援センター等が中心的に行う主体とする、「ヤングケアラー・コーディネーター」を配置するなど』(著者要約)
(3)啓発活動の継続としくみ
『ヤングケアラーの支援を進めていくためには、周囲の大人等が理解を深め、家庭においてこどもが担っている家事や家族のケアの負担に気づき、必要な支援につなげることが重要である。そのための広報活動を継続する。』(著者要約)
ヤングケアラー実態の調査報告 (2020-2021年)
2020年-2021年に実施されたヤングケアラーの実態調査の中で、その実数は「家族の中にあなたがお世話している人はいますか?」の回答結果として下記があります。(こども家庭庁のホームページより)
(1)ヤングケアラー実数:小中学生では15-17人に1人(クラスに約2人)
- 小学校6年生では、6.5%(15人に1人)
- 中学生2年生では、5.7%(17人に1人)
- 全日制高校2年生では、4.1%(24人に1人)
- 定時制高校2年生では、8.5%(12人に1人)
- 通信制高校生では、11%(9人に1人)
- 大学3年生では、6.2%(16人に1人)
(2)ケア相手:兄弟61.8%、父母23.5%、祖父母14.7%(中学2年生)
ケアを行う相手は、兄弟、父母、祖父母などの家族であり、それら家族にたいして、本来は大人が対応すべき次のようなケアが必要な様々な、下記のような状態にあることが想定されています。(こども家庭庁のホームページより)
- 障害や病気のあるきょうだいなど家族
- 育児期にある乳幼児などの幼いきょうだい
- 認知症の高齢者など目の離せない家族
- アルコール、薬物、ギャンブル問題を抱える家族
- がんや難病、精神疾患などの慢性的な病気のある家族
- 言葉が通じない家族
(3)ケア頻度と時間:ほぼ毎日が45.1%、7時間以上が11.6%
2020年調査では、ケア頻度は、中学2年生で下記の状況にあります。
- ほぼ毎日:45.1%
- 週に3-5日:17.9%
- 週に1-2日:14.4%
年調査では、ケア時間は、中学2年生で下記の状況にあります。
- 3時間未満:42.0%
- 3-7時間未満:21.9%
- 7時間以上:11.6%
(4)ケア内容:料理や洗濯・掃除、幼いきょうだいの世話が多い
子どもたちが担うケア内容は、下記のような様々なものがあり、中学生では79.8%が幼いきょうだいの世話、高校生では56.5%が家事(買い物、料理、洗濯、掃除など)が多い。(2020年調査)
- 障害や病気のある家族に代わりに、買い物、料理、掃除、洗濯などの家事
- 家族の代わりに、幼いきょうだいの世話をしている
- 家族の代わりに、障害や病気のあるきょうだいの世話をしている
- 看病、介護など身の回りのお世話
- 見守りや声掛け、言葉の通訳など
- 家計を支えるためのアルバイトなどの労働
参考情報:
②ヤングケアラー実態調査の結果(2020年―2021年)(こども家庭庁)
ヤングケアラー支援の相談窓口
こども家庭庁のホームページでは、ヤングケアラーを公的機関の支援サービス利用にスムーズに結びつけるために、関連サービス窓口を一覧公開しています。
個別の困難な状況にあわせて相談先を選択し、臆することなく胸を張って、苦境から脱するために窓口を有効活用することを、ぜひともお勧めします。
参考引用情報先サイト:子ども家庭庁HP ヤングケアラー支援の関連相談窓口
関連サービスの相談窓口
児童相談所相談専用ダイヤル
令和3年7月から児童相談所相談専用ダイヤルが無料になります。
児童相談所相談専用ダイヤルの無料化について
児童相談所は、都道府県、指定都市等が設置する機関で、こどもの健やかな成長を願って、ともに考え、問題を解決していく専門の相談機関です。
育児、里親、ヤングケアラーなどこどもの福祉に関する様々な相談を受け付けています。
フリーダイヤル0120-189-783(いちはやく・おなやみを)までご相談ください(お近くの児童相談所につながります)。
※ 従来と同様、固定電話のほか、携帯電話からの電話もつながります
※ 令和3年7月1日以降、フリーダイヤルへの移行に伴い、従来の電話番号(0570-783-189)は使用できなくなります。
※ 虐待相談・通告については、児童相談所虐待対応ダイヤル「189(いちはやく)(フリーダイヤル)」までご相談ください。
24時間子供SOSダイヤル(文部科学省)
いじめやその他の子供のSOS全般について、子供や保護者などが夜間・休日を含めて24時間いつでも相談できる、都道府県及び指定都市教育委員会などによって運営されている、全国共通のダイヤルです。
- 電話番号:0120-0-78310(なやみいおう)(フリーダイヤル)
- 受付時間:24時間受付(年中無休) ※通話料無料
子どもの人権110番(法務省)
「いじめ」や虐待などこどもの人権問題に関する専用相談電話です。
- 電話番号:0120-007-110
IP電話の場合はこちら(法務局電話番号一覧(通話料有料)) - 受付時間:平日8:30~17:15 ※通話料無料
土・日・祝日・年末年始は休み
「自立相談支援機関 全国相談窓口一覧」(PDF/499KB)
お金、仕事、住宅など、生活に関するお悩みはこちらの窓口にご相談ください。なお、お住まいの窓口の連絡先がない場合は、都道府県、市区町村へお問い合わせください。
「障害福祉サービス等情報検索」
障害福祉サービス等について、事業所の運営情報などを様々な条件で検索、閲覧できます。
障害者や障害児に対する介護等の相談について
基幹相談支援センターは、地域における相談支援の中核的な役割を担う機関として、総合相談、権利擁護、地域の相談支援体制の強化などを地域の実情に応じて行う施設であり、市区町村が設置しています。現在、全国で846か所が設置されています。※平成31年4月時点
なお、基幹相談支援センターへの相談や障害福祉サービス等を利用したい場合は、お住まいの市区町村へお問い合わせください。
「介護事業所・生活関連情報検索」
全国約21万か所の「介護サービス事業所」の情報が検索、閲覧できます。
高齢者介護の相談について
「地域包括ケアシステム 地域包括ケアセンターについて」
地域包括支援センターは、地域の高齢者の総合相談、権利擁護や地域の支援体制づくり、介護予防の必要な援助などを行い、高齢者の保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とし、地域包括ケア実現に向けた中核的な機関として市町村が設置しています。現在、全国で5,167か所が設置されています。(ブランチ(支所)を含めると7,341か所)※平成31年4月末時点
正社員を希望する若い方の就職相談について
「新卒応援ハローワーク」
新卒応援ハローワーク」は、高校・大学等を卒業予定の方や卒業後おおむね3年以内の方の就職を支援するハローワークです。
担当者制による個別相談などにより、一人一人の希望や困りごとに寄り添いながら、就職活動をサポートしています。
「新卒応援ハローワーク」は各都道府県に1か所以上、全国56か所に設置されています。
「わかものハローワーク」
わかものハローワーク」は、おおむね35歳未満の方で不安定就労の期間が長い方や、正社員経験が少ない方などの正社員就職を支援するハローワークです。
担当者制による個別相談などにより、一人一人の悩みや課題に寄り添いながら、正社員就職をサポートしています。
「わかものハローワーク」は全国に22か所、ハローワーク内の「わかもの支援コーナー・窓口」は全国195か所に設置されています。
「地域若者サポートステーション」
「地域若者サポートステーション」は、現在働いておらず、働くことについてさまざまな悩みを抱えている15歳以上の方の就労に向けた支援を行っている施設です。
厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがある民間団体などが運営しており、キャリアコンサルタント等による専門的な相談支援を行うなど、「身近に相談できる機関」として、全国177か所に設置されています。
「ハローワーク」
「ハローワーク(公共職業安定所)」は、全国554か所に設置されています。
ヤングケアラーの背景と心理的閉塞感
ヤングケアラーとして、家族ケアを中心的に担う状況に至った背景は、様々な要因と複雑さがあります。それぞれの、個別事情の問題が子どもの労働力を必要としているといえます。子どもがお手伝いすることは好ましいことですが、それが無くては家庭を維持することができない場合には、過度な役務を子どもに強いる状況にあるといえます。近代日本が持っていた村社会制度が弱体化し、地域社会の絆とサポート力が弱まった現代社会においては、孤立する家族、孤立する子どもたちが存在している事実は、大きな社会問題です。
現代社会では、近所づきあいが希薄化し地域の結束力が弱まり、核家族化が進んでいます。そんな中で、一人親家族が増えている状況にあり、経済的に困窮するケースも急増しています。また、同様に親御さんが就労困難な疾病にさらされ、経済的な困窮に陥るケースもみられます。また、父母の薬物依存、ギャンブル依存、精神疾患、家族にたいしてストレス発散するDV行為、児童虐待など、機能不全の家族の場合もあります。それらにより、病気の父母の看病、高齢者の祖父母の介護、幼いきょうだいのお世話など、に多くの時間を費やされ、友人と過ごす楽しい時間や、勉学に費やす時間が無く、ヤングケアラーの状況に至ることになります。
多くの子どもたちは、家族のお世話は当たり前だと認識している状況にあり、自分自身のメンタルを維持するためにも、それを苦労だと考えることを意識的に避ける傾向があります。同様に、家族の内情を知られることは恥ずかしいと考える傾向などによって、外部に相談することは少ない状況にあります。また外部からの支援を受け入れることを恥ずかしいことだと考える父母が多いこともあり、外部からの支援を断る親御さんが多いという現状が伝えられています。その状況は、友達と遊ぶ時間や勉学の時間をなくし、伸び伸びとした子どもらしい生活を奪い去ることになります。
その結果、子どもが成長し、高校進学期や進路を決める時期になって、自分の夢を断念し、将来に希望が持てない閉塞感に直面し、無力感とストレスで、精神的に追い込まれる子どもたちが多くなる現実が存在しています。
このような、現代社会のヤングケアラーたちの状況は、子どもに過度な児童労働を強いている状況にあります。それは、家庭におけるある種の心理的・肉体的な児童虐待に匹敵する過酷な状況に、子ども達が追いやられている状況にあるといえす。
参考情報:ヤングケアラー関連の心理的背景:心理カウンセリング領域と対処ヒント
参考書籍:
① 図説ポケット ヤングケアラーがよくわかる本 〈若年介護問題を知る!〉 著者:飯島 章太
② ヤングケアラーの歩き方 〈 家族グレーゾーンの世界を理解する本 〉 著者:大庭 美代子
ご近所による支援の必要性
日本における江戸時代の子育ては、地域社会で子どもたちを日常的に見守ることが、ふつうに行われてきました。また、年長の子どもが年下の近所の子どもをお世話することや、近所の幼児の子守り役として契約する風習の地方もありました。また幕末から明治初期にかけて、海外から来日した多くの欧米諸国の政府役人や文化人たちの日本紀行の書物には、農村でも街中でも「子ども達がとても大切にされており、とても幸せそうな笑顔を見せる」という記述や、「村々では、多くの子ども達が、背中に幼児をおんぶし、背中の幼児はスヤスヤと幸せそうに眠っている」という記述などがあり、さらには撮影されたセピア色の写真にも、多くの子ども達が幼児をおんぶして、友たちと楽しく遊ぶ様子が写されています。
引用参考書籍:子育て家族支援 ご近所マニュアル 〈読んで楽になるカウンセリング本シリーズ〉 著者:長谷川 裕通
これは、古き良き時代の日本の習慣として、子どもは神様からの授かりものとして、七五三などの通過儀礼を大切にしながら、地域の大人達から子どもたちは大切にされ、村ぐるみで子どもたちが育てられてきました。そして、年長の子は忙しく働く父母にかわって、幼少のきょうだいのお世話をすることが当たり前の時代でした。しかし、そこには地域の人たちが、常に年長の子守り役の子と幼児の子を含め、全ての子どもに声をかけ、大切な子ども達を見守るという地域の絆があったといえます。それは、子ども達の様子を常に気にかけて、「ご飯を食べたかい」、「元気にしてるかい」、「困っている事はないかい」などと、声をかけてあげることで、その子の生活に問題があれば助けてあげるという温かなメッセージを含んだ、ご近所の大人とのつながりがありました。
いま、現代社会で、地域の絆が希薄化し、ご近所づきあいも減少し、頻繁に転居する都会生活者が増え、どんな近隣住民が住むのかもわからす、近所にも知らない住人が増えています。むしろ最近では異常者による犯罪が増えており、子ども達にとっても危険な地域社会へと変貌してしまった状況にあります。その結果、地域とのつながりを持たない多忙な家族が増え、ヤングケアラーたちが家族を支えるような困窮家族は、外部からはうかがい知ることができない孤立状況に直面しています。
ヤングケアラーの状況にある子どもたちが、自分の夢と自分の将来に向かって、希望を持ち続け、自分が目指す、医療や福祉分野をはじめ社会のために貢献できる分野への進路を断念することがないように、地域住民としてのサポートが必要です。
ご近所の方々は、子どもが持つ夢の実現を応援するために、国の法律改正が施行されたタイミングで、これまで以上に、地域住民としてのヤングケラーの現状を理解し、小さくでもサポートできる事・領域を自分なりに確認することが私たちに求められています。
今、子育てを地域社会で支えあうような習慣・風習を持つ江戸時代に回帰することは困難ですが、地域社会の一人として、地域で育つ子どもたちが、困難に直面していないか、という関心を常に持ち、自分にできる小さなサポートとしての声掛けや挨拶を交わすことで、問題が生じた時に手を差し出せるような、関係性をつねに維持することを、地域の方々にお願いします。
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