うつ病発症に脳内グリア細胞が関与するとの研究報告で新薬開発が期待される!
最新研究で、脳内グリア細胞が精神疾患に関与することが報告されており、将来は疾患寛解の時代に向かう
近年の研究では、精神疾患、発達障害、認知症などの発症に脳内のグリア細胞が大きく関与していることが明らかになっています。今後、精神疾患などの発症機序が明らかにされることで、うつ病、発達障害などの根本治療が可能な新薬開発が期待されます。
目次
脳内グリア細胞に関する新たな発見
これまでは、精神疾患の発症メカニズムに不明点が多くあり、根本治療が難しいことから副作用のある治療薬を複数多剤で長期投与される治療傾向にありました。しかし、精神疾患の発症メカニズムが解明されることで、疾患原因を標的にした寛解治療が見込める新薬開発が可能となります。
従来、脳内グリア細胞は、神経ネットワークとしての情報伝達機能はなく、単なる脳神経細胞ニューロンへの栄養補給や死滅細胞の修復などの脇役としての支援機能のみとされていました。しかし、近年の研究では、神経細胞ニューロンの電気信号を読み取ってグリア細胞間での情報伝達や、ニューロンと連携した脳全体への一斉通信や血流制御といった脳機能に直接関わり、脳機能全体を制御・統制していることが明らかになってきました。(参考情報①)
それは、うつ病や統合失調症などの発症機序への関わりや、クロイツフェルト・ヤコブ病(プリオン病)や認知症など脳神経変異性疾患への関わり、さらには乳幼児期の脳細胞の急成長期におけるシナプス形成に大きく関与し、その後の脳発達の安定期にける、ADHDやASDなどの発達障害におけるグリア細胞の特異的活動と大きく関わりがあるという研究報告が相次いでいます。(参考情報②、③)
さらには過剰ストレスによる脳内体温上昇がマイクログリア細胞による脳幹神経細胞(ニューロン細胞、グリア細胞などを生み出す元細胞)を貧食(細胞を刈込む)することで細胞減少することが報告されています。(参考情報④)それは日常的な過剰ストレスによる抑うつ傾向の脳機能低下に、グリア細胞が関与している可能性を示唆・推察させます。
参考情報:精神疾患、発達障害、認知症に脳の自己免疫疾患が関係 ~精神医学の常識を根底から書き換える「ミクログリア革命」(ダイヤモンド・オンライン 2022年4月6日リリース記事)
脳疾患の発症メカニズムが徐々に解明
現在の科学が進んだ世の中にあって、私たちの脳機能は科学で解明されていない部分が多くあります。脳機能は生命維持のための神秘に満ちた機能が多く、その解明に多くの科学者がこれまで果敢にチャレンジしてきました。神秘に満ちた脳機能を科学的に解明することは、脳や神経の疾患への治療方法を確立することに結びつく人類にとっての大きな進歩といえます。
その成果は疾病で苦しむ多くの方々にとって、大きな一筋の光となります。とくに治療法が確立していない脳神経的な疾病や精神病理でに直面している方々にとって、それらの発症メカニズムは解明され、治療方法が確立することへの大きな期待が科学者に寄せられています。
さらには、グリア細胞が脳神経性変性疾患や精神疾患の発症に大きく関与していることを示唆する報告があり、うつ病の発症や強迫神経症、統合失調症、さらにはADHDや自閉症などにも、グリア細胞の関わりが示唆されています。そのことから、直接的に発症原因となっている神経細胞をターゲットにした治療薬の将来開発への期待がもてます。
脳の大部分を占めるグリア細胞が多くの精神疾患に関与
グリア細胞は、ニューロンの情報伝達を常に監視し、脳全体への広範囲な情報伝達が瞬時に可能らしいということです。さらには、脳機能を維持するためのニューロンなどの炎症を抑える機能によって、認知症や神経変性疾患によるニューロンなどの細胞破壊を遅らせることや、傷つき死滅したニューロンを分解する機能などが報告されています。
また、情報伝達機能の特徴については、ニューロン同士はシナプスで接続する情報伝達で、軸索というケーブルで接続された脳内電話網に相当する伝言ゲーム的な情報伝達と例えることができるそうですが、グリア細胞同士の情報伝達はWi-Fi通信のような広範囲のグリア細胞同士が一斉に連携できる情報伝達が可能らしいということです。
最新研究では、4つのグリア細胞のうち、アストロサイトにはセロトニンなどの脳内神経伝達物質を取りこめる受容体があり、ニューロンと同様の情報伝達が脳全域に可能だとする研究があります。(新版 脳・神経のしくみ新版:マイナビ出版2024年4月:運動・からだ図解シリーズ )
脳内グリア細胞の種類
脳細胞の90%を占めるグリア細胞は、19世紀に発見されて以来、脳細胞の10%を占める脳神経の主役であるニューロンの情報処理を支援する単なる隙間を埋める単なる脇役としての存在だとされてきました。また、その動作観察も難しいことから、脳機能を解明するための研究対象としてニューロンほどに注目されることはありませんでした。しかし、ここ最近の電子顕微鏡による動態観察が可能となったことで、グリア細胞に関する脳神経学上における多くのが発見が報告されています。
脳内のグリア細胞を構成する主要な種類は、「アストロサイト」「オリゴデンドロサイト」「ミクログリア」「上衣細胞」の4種類があります。
アストロサイト細胞
アストロサイトは血管からニューロンへの栄養伝達を司る細胞で、グルタミン酸をはじめとした神経伝達細胞の供給、グルコースを乳酸に変換してニューロンのエネルギー供給などの作業を担っています。また、脳の健康維持の役割として、睡眠時には有害細胞の除去によって脳内の免疫を維持し、脳組織が損傷した際はアストロサイト自らが増殖することで炎症部を塞ぐ働きがあります。
アストロサイトは、神経細胞の形態と機能を支えるだけではなく、神経細胞の活動を主導的に制御する役割を果たすことが近年注目されつつあります。理化学研究所の研究では、脳内のアストロサイトに発現するグルタミン酸受容体の一つであるGluN2C-NMDA受容体が、海馬の神経細胞間の情報の伝わりやすさを調整することを発見され、アストロサイトの機構に新たな知見を得るとともに、NMDA受容体を標的としたうつ病や認知症治療薬の作用機序の理解につながると期待されています。
『理化学研究所の国際共同研究グループは、GluN2C-NMDA受容体が海馬アストロサイトに多く発現し、神経細胞同士のシナプスを介した情報の伝わりやすさの幅を広げていることを見いだしました。本研究では、新たにアストロサイトGluN2Cがシナプスの制御に関わることを発見しし、特に、GluN2C-NMDA受容体はシナプス前終末強度の分布幅を拡大する役割を果たし、その広い分布幅はシナプス可塑性を起こしやすくしています。今後、海馬の学習や記憶にはどのようにSR層のアストロサイトが関与するか新たな知見が得られる可能性があります。
うつ病や認知症の治療薬には、ケタミンやメマンチンなどNMDA受容体を標的とする拮抗薬があります。試験管内での実験では、ケタミンとメマンチンはNMDA受容体の中でもGluN2C-NMDA受容体により効果的であることが示唆されています。従って、今後は神経伝達異常を伴う脳神経疾患の病因や治療法へもアストロサイトが大きく関わることが見込まれます。』
参考引用情報:アストロサイトが担うシナプス制御メカニズムを発見-GluN2C-NMDA受容体がシナプス強度分布幅を拡大する-(理化学研究所プレスリリース 2021年12月2日)
オリゴデンドロサイト細胞
オリゴデンドロサイトはミエリンと呼ばれるニューロンの突起部を形成する細胞で、ミエリンは電気信号の伝達を直接担い、運動機能や感覚機能を正常に保つにはミエリンの形状を維持する働きは重要な役割です。また、オリゴデンドロサイトからは、ニューロンの成長・増殖に関わる因子が多く分泌されます。 そららの因子には、NGF(神経成長因子)やBDNF(脳由来神経栄養因子)などがあります。
ミクログリア細胞(マイクログリア細胞)
ミクログリア(マイクログリア)は中枢神経系の免疫細胞の働きをもっており、ニューロンの神経伝達の状態を常に監視しています。そして問題が確認された際は、病巣部に集積して原因細胞を除去するために、オリゴデンドロサイトと同様の因子を分泌する機能があります。またニューロンの神経伝達が正常に機能している通常時には、グルタミン酸の活性量を制御することで、興奮毒性がニューロンにダメージを与えることを防ぐ役割をもっています。
さらには、妊娠胎内および乳幼児期における脳発達に深く関わり、生成しすぎた不要な脳神経細胞のニューロンを貪食による刈込みすることや、生成を促進するなどの活動により、適正なニューロン生成を制御していることが報告されています。それにより、ミクログリアの異常によって過剰なニューロンを刈込できない場合はADHDなどASD傾向が強まることが示唆されています。
浜松医科大学の研究では、下記のようなADHDへのミクログリアの関与が報告されています。
『前部帯状回のドパミンD1受容体の結合能が低いほど落ち着きのなさが顕著で、背外側前頭皮質の活性化ミクログリアの結合能が上昇しているほど素早く正確な作業が困難で、不注意も目立っていた。また、眼窩前頭皮質の活性化ミクログリアの結合能が増加しているほど素早く正確な作業が困難であるという関係も認められた。そして、ADHDの人では、背外側前頭皮質と眼窩前頭皮質でドパミンD1受容体の結合能の変化と、活性化ミクログリアの結合能の変化が、互いに関係していることも判明した。』
参考引用抜粋:ADHDの重症度にドパミンD1受容体と活性化ミクログリアが関与:(浜松医大 2020年5月論文発表)
参考情報:免疫分子が大脳皮質グリア細胞に異常を起こす ~自閉スペクトラム症の予防・治療に道:(筑波大学 2020年6月論文発表)
上衣細胞
上衣細胞には、表層に大量の繊毛が生えており、脳室の壁を構成するように存在しています。この繊毛は脳脊髄液を運搬し、栄養因子の輸送や有害物質の除去を担っています。また、脳脊髄液が成長ホルモンを含むことから、脳の発達段階におけるニューロンの増殖にも大きく関与しています。
投薬治療は症状緩和の対症療法
抗うつ薬の多くは気分の落込みにたいして、対症療法としての投薬治療です。しかし、仮にうつ病の発症機序として、グリア細胞の何らかの活動変化によって脳内神経伝達物質のバランス変化に結びつくことが明確となれば、そのグリア細胞を標的にした新薬開発が可能です。
現状では、うつ病と同様に多くの精神疾患は、脳内における神経細胞の変化といえる発症機序が解明されていないことで、根本治療は難しい現状があります。多くの精神疾患の薬は偶然に効果が認められるものが発見されたり、症状としての脳内神経伝達物質のバランス異常を変化させる対症療法薬です。
そのため、セロトニンの再取り込み阻害する抗うつ薬なども含め、なんらかの副作用が強い精神治療薬を複数多剤で長期投与することで、強い副作用と戦いながら、長期治療を余儀なくされている現状にあります。
将来には完全寛解の新薬開発に期待
今後、精神疾患にグリア細胞が関与するなどの発症機序が解明されることで、発症原因を標的とした新薬開発に期待が持てることで、精神病薬、向精神薬、抑うつ薬などは、将来的には疾患を根本的に解消する完全寛解が夢ではない新薬開発に期待がもてます。
仮に、研究成果として発表されたように、うつ病の発症機序が、ストレスによる特定の脳内部位の体温上昇で、ミクログリアが正常なニューロンを貪食(刈込み)してしまう異常反応によるセロトニン量減が、うつ病の発症原因に関連していることが明にされた場合、ミクログリアの異常な貪食反応を標的とした作用機序の抗うつ薬の新薬開発で根本的な治療が実現します。(参考情報④)
精神疾患の発症機序にグリア細胞が関与することが解明されれば、それを標的にした新薬が開発されることで、長期的なうつ病の短期間な寛解や、パーキンソン病、認知症などの脳神経変性疾患の根本治療、さらにはADHD・ASDなどの発達障害が解消される将来がきます。
寛解治療の新薬が登場するまでは、第一処方は心理カウンセリング
しかし、根本治療薬がない現状においては、症状緩和の投薬治療だという認識のもと、副作用に注意しながらなるべく単剤処方で長期服用は避けることが望ましいといえます。
さらには、ここ数年のうちに開発されることは難しく、臨床治験の期間などもふくめ、10年程度の将来だと推察されています。そのため、脳神経疾患や精神疾患の疾病原因が解明され、新薬による根本治療が実現するには、かなりの時間を要します。
そのため当分の間は、対症療法薬として、副作用に配慮しながら慎重に投薬治療を継続することが必要となります。
そのため、たとえばストレスによる抑うつ傾向が強まった時などは、すぐに副作用のある投薬治療に頼りすぎることなく、まずは第一処方として、心理カウンセリングの精神療法で、根本原因のストレスを軽減するストレスコーピング・スキル獲得や、日常的な考え方や行動変容を目的とした認知行動修正療法などを優先することが望ましいといえます。
ストレスを感じることは脳が正常に機能している危機回避の反応
ストレスによる心身不調は、脳機能や自律神経が正常に機能していることを示しており、ストレスを無視することなく、適切な対処が必要です。
職場や家庭で強いストレスを感じた時には、人間としての身体を守るために必要なストレス反応としての、気分が落ち込む抑うつ傾向の目的は、活動を控えて休養が必要だという脳からのメッセージです。それは、脳機能や自律神経が正常に機能して、自分を守ってくれている適切な心身反応だと認識することが必要です。
そのストレス反応の原理を正しく理解し、ストレスの苦しさを過剰に受け止めてしまったり、その苦しさを無視して苦しい感情を切り離したりすることがあってはなりません。そのストレスに身体が自動的に反応し、疲れを感じていることは、ストレスにたいする警報が発令されている状態です。適切なストレス対処と心身の休養が必要です。
投薬治療に頼り過ぎることなく、心理カウンセリングで心身回復
日常的なストレスが積み重なってしまい、心身に不調が生じた場合には、投薬治療に頼りすぎることなく、ストレスに適切に対処するスキルをフル活用することが必要です。それには心理カウンセリングで、心理療法によるストレスケアとストレス対処スキルを獲得することで、そのストレスに立ち向かうことが可能となります。
ストレスに負けない健康な体を維持するために、日常的な運動習慣で基礎体力を維持し、脳のストレスにたいする対応機能がフル稼働できる身体づくりが望まれます。
ストレスに負けない健康な身体づくりのために、身体機能を維持する日常楽な呼吸エクササイズ、自律神経を整えるための日常的なリラクゼーション・エクササイズなどの取組みをお勧めします。
ストレスにうまく対応するために、職場など生活場面にふさわしいストレス対処スキルを獲得すること、ストレスを受けた時の適切な受けとめ方や考え方を身に付けておくことが必要です。
ストレスで心身不調に陥ってしまった場合には、精神疾患の治療薬をすぐに頼るのではなく、まずは副作用のない安全な心理療法の心理カウンセリングをうけて、健康な心身を取り戻してください。
長谷川メンタルヘルスケアセンターでは、ストレスを抱えた方々が、一日も早く幸せな生活を取り戻していただけるよう、ストレスケアと対処スキル獲得のお手伝いすることで、皆様のお役に立てるdことを、スタッフ一同、心から願っております。
執筆者紹介
長谷川メンタルヘルスケアセンター
代表カウンセラー
国家資格公認心理師 長谷川 裕通
参考書籍
①「もう一つの脳 ~ニューロンを支配する陰の主役グリア細胞」:著者 R・ダグラス・フィールズ 、監訳 小西 四朗、出版 講談社
② 「脳の寿命を決めるグリア細胞 ~実は思考、記憶、感情を司る陰の主役だった」:著者 岩立康男 、出版 青春出版
参考情報
①:精神疾患、発達障害、認知症に脳の自己免疫疾患が関係 ~精神医学の常識を根底から書き換える「ミクログリア革命」(ダイヤモンド・オンライン 2022年4月6日リリース記事)
②:ADHDの重症度にドパミンD1受容体と活性化ミクログリアが関与:(浜松医大 2020年5月論文発表)
③:免疫分子が大脳皮質グリア細胞に異常を起こす ~自閉スペクトラム症の予防・治療に道:(筑波大学 2020年6月論文発表)
④:神経幹細胞の温度受容体がストレスによる成体神経新生の障害に関与する ~マイクログリアによる貪食を介した新たなメカニズムの発見:(東京大学/長崎県立大学:2021年11月論文発表)
⑤:心理状態に応じて変化するグリア細胞の活性化様式を発見 ~警戒行動時の二次情報伝達物質の動態を可視化~ :(理化学研究所:2020年2月)