抗うつ薬よりも強力な効果がある運動療法の処方解説
脳機能を回復し精神疾患の改善ができる運動療法の高い効果はなぜ注目されないのか?その経済的不都合と謎に迫る
精神疾患治療における最新研究をもとに、抗うつ薬よりも強力な治療効果がある運動療法の処方を解説します。うつ病は、セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなどの脳内神経伝達物質の欠乏や、バランスの乱れと密接に関わっていると考えられています。研究報告ではセロトニンなどの神経伝達物質は、運動することによって大きく増えることが明らかになっています。それは、治療費用をかけることなく、最も安全な方法で脳機能が回復することを意味しています。※1
※1:うつ病の治療効果( the British Medical Journal )
その運動の効果として現れる感情の安定感は、運動を終えた時に感じられ、その状態は数時間つづきます。そして定期的に運動する習慣によって、その効果は継続されることが報告されています。運動による心拍上昇、血圧上昇は、不安や恐怖で交感神経や優位になった状態と同様の状態であり、不安や恐怖を抑制し克服する原動力です。
目次
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1)不安・緊張・トラウマ反応などは、人類進化で獲得した危機回避のアラート機能です
2)不安や緊張を生じるストレス反応の身体反応の機序について
1.ストレス刺激に偏桃体が反応する
2.偏桃体→視床下部→下垂体→副腎皮質へのストレス反応でコルチゾールが分泌する
3.コルチゾールが偏桃体を刺激して、抑制不能な過剰ストレスの反応ループが生じる
3)SSRIなどの抗うつ薬による投薬効果は一時的な対症療法です
4)うつ病や不安神経症には心理カウンセリングと運動が必要です
5)運動には、脳を修復するBDNF(脳由来神経栄養因子)物質を増やす効果がある
6)投薬よりも効果の大きい運動に関する研究報告が次々に発表される
1.うつ病に対する運動の効果
2.小児および青年のうつ病に対する運動介入の効果
3.日本における研究報告
7)運動で強化される脳機能
1.脳のダメージを修復する新生脳細胞を生み出す
2.前頭葉による感情抑制の強化
3.海馬による不安抑制の強化
4.GABAの分泌促進による脳ストレスの鎮静強化
8)治療効果の高い運動は、1位ウォーキング・ジョギング、3位ヨガ、5位エアロビクスです
9)治療効果の高い運動がニュース報道で注目されない理由
1.超巨大マーケットを抱える世界の製薬業界
2.精神医療現場における5分診療と投薬中心療法の現実
不安・緊張・トラウマ反応などは、人類進化で獲得した危機回避のアラート機能です
人間が不安や恐怖を感じるのは、人類の進化で獲得した生き抜くための身体反応であり、原野でライオンなどの猛獣に遭遇した時に、瞬時にその危険を回避するための脳機能です。それは危険場面に遭遇した時に自律神経が反応して交感神経を瞬時に優位にすることで、その危険性にたいして「闘争か、逃走か」の瞬発力や、息を殺して、「静かに潜む」ことを可能とする緊急警戒のアラート機能です。
現代社会では、過去に学校のクラス全員から虐めを受けた記憶がよみがえる場面、交通事故に遭遇した場所や類似場面、過去に虐待された場所・時間・季節などの類似場面、会社の役員会議での事業企画プレゼンで役員から攻撃されてしまい撃沈してしまった失敗場面、などの類似場面に遭遇した場合に、その時と同様の不安、緊張や恐怖を強く感じることがあります。さらには、過去の不安や恐怖感覚が頭によみがえり、身体が自動反応し、血圧上昇、呼吸の乱れ、そしてパニック発作のようなPTSD的な症状を誘発することがあります。
その不安や恐怖は、今の目前には類似場面ではあるのもの、危険な要素がない安全な場面であっても、不安と緊張が自動的に沸き上がるのは、脳の側頭葉の奥にある左右二つの偏桃体が、過去の不安・緊張場面と類似で危険性だという警戒アラートが、過剰に反応している状態にあるといえます。
同様にストレスに直面すると抑うつ傾向で疲れを感じて活動量が低下することも、生き抜くためには、活動をひかえる休息が必要だという危険アラートです。
これらの危険警戒のためのアラート機能は、目前に迫る生存危機を迅速に回避するための脳機能だといえます。人類が進化するうえで、危険に遭遇した記憶が脳に刻まれており、猛獣の餌になることを回避し、毒ヘビや毒クモに命を奪われることを避けるために必要な不安と恐怖、疲れたら休むという抑うつ感などは、これまで進化することができた身体反応です。
不安や緊張を生じるストレス反応の身体反応の機序について
1.ストレス刺激に偏桃体が反応する
暗闇で自分に向かってくる暴漢に遭遇したときに「叫び声」をあげて逃げ出す時の身体反応は、仕事や学校で他人から攻撃されて不安や恐怖を感じる時の反応と同じです。その反応は、大脳皮質で保持している過去の恐怖体験にたいする知識的な「長期記憶」、その恐怖を感じた情動の「感情記憶」、そして緊張で身体が震えた時の皮膚感覚の「身体記憶」の3つがあり、それらの記憶に近い過去の類似場面に遭遇すると、脳が危険が迫っていると判断し警戒アラートを発します。その、不安や緊張の警戒アラートを発動する脳部位は偏桃体です。その偏桃体が、ストレスに強く反応することで、瞬時に不安や恐怖感情を誘発することになります。
2.偏桃体→視床下部→下垂体→副腎皮質へのストレス反応でコルチゾールが分泌する
不安や恐怖を強く感じた時に、その危険を回避して生き延びるために、脳の深部にある視床下部が瞬時に、ストレスに対応するための前駆ホルモンを放出して、下垂体を刺激すると、さらにストレスに対応するための別のホルモンを分泌します。そして、そのホルモンが血流によって瞬時に運ばれて、副腎を刺激すると副腎はストレスホルモンの「コルチゾール」を血液中に放出することで、動悸が激しくなり心拍数があがる。これらは、数秒と要することなく瞬時に反応する。
3.コルチゾールが偏桃体を刺激して、抑制不能な過剰ストレスの反応ループが生じる
ストレスホルモンのコルチゾールが血流で全身に巡ることで心拍数の増加や筋肉の硬直など、瞬時に身体的な反応を可能にする作用を及ぼすが、そのコルチゾールは、そもそのも出発点の偏桃体をもさらに刺激されることになる。それにより、偏桃体が繰り返し反応することで、不安と緊張感が高まる反応をさらに誘発する。その結果、不安と緊張のブレーキの前頭葉と海馬では制御できないほどに過剰反応することに結びつく。その結果、現在の目前の過去に類似した不安・緊張場面へ反応に留まらず、将来の出来事を含めた、あらゆる事への予期不安が高まる不安神経症や、過剰な緊張によるパニック発作に結びつくことが考えられる。
SSRIなどの抗うつ薬による投薬効果は一時的な対症療法です
うつ病は、セロトニン・ノルアドレナリン、ドーパミンなどの脳内神経伝達物質が欠乏したり、それらのバランスの乱れと密接に関わっていると考えられています。しかし、それらの脳内物質を投薬治療で単純に増やせば、それらの精神疾患がすぐに寛解するというような単純なものではありません。うつ病自体の発症機序が解明されていない現在では、SSRIなどの抗うつ薬で、セロトニン量を増やすことは、一時的な対症療法でしかありません。
1987年にアメリカの政府機関である食品医薬品局(FDA)が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)である抗うつ薬の「フルオキセチン」を発売認可し、「プロザック」という商品名で発売されました。
それ以降、同様のSSRIが多く開発され、副作用が少なく多幸感・満足感を高めるセロトニンの濃度を高めるため、世界中で爆発的に売れています。しかしその後の評価として、うつ病自体が寛解するのではなく、一時的な多幸感効果であり、その副作用の危険性や自殺の危険性があるなどの臨床結果もあり、日本ではプロザックは認可されていませんが、発売認可されているものとして、SSRIの「ジェイゾロフト」や「レクサプロ」、第4世代の治療薬としてSNRIなら「イフェクサー」や「サインバルタ」などがあります。
しかし、全ての精神治療薬には副作用リスクがあり、効果が出るまでには時間を要することや、その反面、長期服用での副作用リスクが大きいこと、さらには他の同類の治療薬との多剤服用で副作用リスクが高まることの危険性があります。また抗うつ薬自体は、全ての人に有効ではありません。それは、約3分の1近くの人にはまったく効果が無いことが明らかとなっています。
うつ病や不安神経症には心理カウンセリングと運動が必要です
うつ病や不安神経症やパニック症などの精神疾患への投薬治療は一時的な対症療法です。うつ病を発症してしまった根本原因となっているストレス源に対処するための社会スキルを獲得する心理カウンセリング療法と、身体的ストレス反応を抑制できる脳機能を強化する運動療法が必要です。
日常的にストレスに曝されることが多い人にとって、日頃から習慣的に散歩などのウォーキング、軽いジョギングなどの日常的な運動習慣がストレスに強い身体づくりが重要となります。
抗うつ薬の投薬治療のみではうつ病の根本治療は難しく、抑うつ傾向の症状を一時的に緩和する対症療法であるという認識が必要です。そのため、うつ病などの精神疾患の発症機序が明らかになっていない現在では、根本治療薬はありません。現状では、抑うつ状態や不安状態の感情を安定させるためには、投薬以外での根本的な治療が必要です。
そのためには、根本的なうつ病発症の原因となったストレス原因を解消させるための問題解決スキルや対人スキルを身に付けるための心理カウンセリングを受けること、および、投薬効果よりも強力な効果があることが実証されている運動療法に取り組むことが望まれます。とくに運動は、投薬治療のようにコストをかけることなく脳機能を強化することが可能です。それは、脳がストレスによる心身不調に陥ることを防ごうとする、人間がもつ本能的な危険回避のための不安や緊張を低減させる機能を強化することで、不安や緊張を克服ことが可能となります。
運動には、脳を修復するBDNF(脳由来神経栄養因子)物質を増やす効果がある
従来、脳内でどのように神経伝達物質が相互に関連しあって作用しているのかが解明されていませんでした。しかし、最近の研究では、うつ病や神経症の傾向にある人の脳内では、セロトニンなどの神経伝達物質の減少と同様に、脳内の栄養源でもあり修復機能を持つ栄養素といわれるBDNF(脳由来神経栄養因子)の数値が非常に低い傾向にあることが注目されています。
それは、精神疾患の発症機序が解明されたわけでなく、神経伝達物質と同様に、疾病との相関関係がBDNFについても同様にあるということが言えるという研究結果です。そして、運動をすることによって、神経伝達物質と同様にBDNFについても、その数値が増えることで、変調をきたした脳を修復し、その機能を強化することに結びつく可能性が高いという研究報告があります。
さらに、最近の研究では、長期間のストレスを受けることによってストレスホルモンのコルチゾールが多量に分泌されることで前頭葉や海馬が縮小することが報告されており、うつ病や不安神経症の人の脳では、新たに神経細胞が作り出される新生細胞が少ないことで、脳全体が萎縮傾向にあることが指摘されています。
しかし、BDNFは新たな脳細胞を作り出すことに大きく関与しており、偏桃体が過剰反応することで引き起こされる過剰不安や過緊張によるパニック発作を抑制する海馬や前頭葉にも多くの新生細胞を作りだすことで、ネガティブ感情を抑制する機能が高まると報告されています。
それは、運動によって、BDNFの数値を高めることで、新生細胞が増えて、不安や緊張にブレーキをかける前頭葉や海馬の細胞を増やすことに結びつき、脳の損傷や萎縮を防ぐことができることを意味します。それは、運動が本来の脳機能を取り戻せるということです。
投薬よりも効果の大きい運動に関する研究報告が次々に発表される
多くの研究で、運動は、精神疾患にたいして治療コストもかからずに、副作用をうけることもなく、最も安全な方法で、脳のダメージを修復させ、脳の機能を回復させることが可能だということを、多くの研究が明らかにしています。そして、その運動の効果として現れる感情の安定感は、運動を終えた時に感じられ、その状態は数時間つづきます。そして定期的に運動する習慣をつけることによって、その効果は一日中継続されることが報告されています。
1.うつ病に対する運動の効果
合計495群、14,170人の参加者を対象とした218件のユニークな研究から、運動はうつ病の効果的な治療法であり、ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニングは、特に激しい場合に他の運動よりも効果的である。これらの運動形態は、心理療法や抗うつ薬と並んで、うつ病の中核的な治療法として考えることができる。
参考情報:British Medical Journal Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials | The BMJ
参考情報:APA(American Psychological Association )うつ病に対する運動の効果:ランダム化比較試験の系統的レビューとネットワークメタアナリシス。 (apa.org)
2.小児および青年のうつ病に対する運動介入の効果
合計35件のRCTと5393人の参加者を対象としたメタ研究比較から、運動は子供や青年の抑うつ症状を大幅に改善し、有酸素運動が最も大きな効果を発揮する。12週間、週3回、40〜50分の運動介入は、年少の子供や青年により効果的である。有酸素運動が抑うつ症状に最も有意な影響を与え(66.2%)、次いでグループトレーニング(62.5%)、レジスタンス運動(59.0%)、レジスタンス運動と組み合わせた有酸素運動(57.9%)であった。
参考情報:National Library of Medicine of USA Effect of exercise intervention on depression in children and adolescents: A systematic review and network meta-analysis - PubMed (nih.gov)
3.日本における研究報告
日本においても脳機能と運動に関する最新研究が多くあり、認知症予防にも運動効果が高いことが報告されています。仕事をリタイアしたシニア層の方々が、高原などで四季折々の美しい自然の風景にふれて心から楽しい時間を楽しめる登山や、無理なく身体を動かすハイキングなどが人気となっています。そのようなシニア層の方々は健康な身体を維持するための日々の散歩によるウォーキングの運動習慣を身に付けて、脳機能の健康を維持することができているといえます。
参考情報:筑波大学 ランニングが快適気分と認知機能を高める脳機構を解明 | 医療・健康 - TSUKUBA JOURNAL
参考情報:国立長寿医療研究センター 認知症の危険因子と運動による予防 | 国立長寿医療研究センター (ncgg.go.jp)
参考情報:厚生労働省 武庫川女子大学生活環境学部食物栄養学科 内藤義彦氏による厚生労働省検討資料
参考情報:NHK出版デジタルマガジン 運動はわたしたちをストレスから守り、脳の老化を後戻りさせる | NHK出版デジタルマガジン (nhk-book.co.jp)
運動で強化される脳機能
1.脳のダメージを修復する新生脳細胞を生み出す
運動によって、新生細胞を生み出す脳由来神経栄養因子(BDNF)が増えることで、新たな脳内ニューロン細胞を生み出すことで、脳細胞を修復することができる。
長期的なストレスによって、脳はストレスホルモンのコルチゾールによる影響をうけて、脳の各部位は萎縮する。しかし、運動で新しく生み出された脳内ニューロン細胞がダメージをうけた脳を修復し、脳機能を維持することができる。この新しく生み出された脳内ニューロン細胞が、ストレスや老化で傷ついた脳を回復させ、さらに脳機能を成長させる可塑性をもたらすと考えられる。
2.前頭葉による感情抑制の強化
運動によって、前頭葉の血流が増えて高次機能が強化され、偏桃体の過剰反応を論理的に抑制する。
前頭葉はストレスによって萎縮することで、偏桃体が過剰に発する不安や恐怖の警告を、前頭葉は理論的な思考で偏桃体を鎮める機能が低下する。しかし、運動によって血流が増えることあわせて、BDNF物質が増えることで新生細胞が生まれて、前頭葉の萎縮を防止することができ、偏桃体の過剰反応を抑えることができて、過剰な不安や緊張を鎮めることができる。
3.海馬による不安抑制の強化
運動によって、海馬の血流が増えることで、偏桃体の抑制機能が強化される。
海馬は記憶の中枢といわれており、短期記憶を取捨選択して大脳で長期に記憶する長期記憶にする機能がある。さらには空間認識や言語記憶の機能があるため、長期のストレスに曝されると海馬は萎縮してしまうと、もの覚えが悪くなることや、自分の居場所や方向が判らないことや、言葉が出てこないなどの症状とあわせて、偏桃体が過剰反応した時のブレーキとしての機能が低下することで、不安や緊張抑制ができないことに結びつく。運動によって、血流が増えることにあわせて、BDNF物質が増えることで新生細胞が生まれて、海馬の萎縮を防止することができ、機能低下を防ぐことができる。
4.GABAの分泌促進による脳ストレスの鎮静強化
運動によって、ストレスの感覚を和らげるGABAが増える。
GABAは、抗ストレス作用のあるアミノ酸で、抗不安薬やお酒のアルコールと同じような作用で、ストレスで生じる脳細胞の興奮を抑える機能がある。このGABAは、サプリメント錠剤で経口摂取で体内補給しても血液脳関門の作用によって、脳内に直接GABAを送りこむ事は出来ない。しかし、運動によって、生まれる脳内ニューロン細胞の中には、主に海馬でつくられるGABAを放出するGABA作動性ニューロン細胞(抗ストレス・ニューロン)があり、海馬の機能が強化されるとともに、直接的に脳内で安全にGABAを増やすことが可能となる。運動は気持ちを落ち着かせる効果を生み出し、海馬で新生細胞がつくられることで、感情を抑制し不安を鎮める海馬の機能が強化される。とくに心拍数が増加するランニングやジョギングなどが散歩などのウォーキングよりも効果が高いとされている。
治療効果の高い運動は、1位ウォーキング・ジョギング、3位ヨガ、5位エアロビクスです
これまでの研究によると、医療的に治療効果のある運動タイプ、心理療法、投薬治療をスコアー分析すると、順位No.1が、「ウォーキングやジョギング」、順位No.2が「認知行動療法」による心理カウンセリング、順位No.3が「ヨガトレーニング」の効果が高く、最下位の抗うつ剤のSSRIによる投薬治療のみでは、No.8治療効果が低いことが報告されています。
運動を習慣化することは、心身の健康維持には大きな効果があります。なかでも、自宅の近所を愛犬と散歩するウォーキングやジョギングは、コストをかけることなく気分転換が可能で、心拍数の上昇が血圧上昇に慣れることで、不安や緊張した場合の交感神経が優位になった時の身体的な過剰反応を克服することができます。スポーツジムやアスレチックジムに通うことが不要で、とても手軽で身近な運動です。
医療的な効果順位 (the BMJ メタ研究解析スコアより)
1.ウォーキング、ジョギング :医療効果スコア(0.63)
2.心理カウンセリング(認知行動療法) :医療効果スコア(0.55)
3.ヨガトレーニング :医療効果スコア (0.55)
4.各種運動+抗うつ薬(SSRI):医療効果スコア (0.55)
5.エアロビクス+心理セラピー :医療効果スコア(0.54)
6.筋力トレーニング :医療効果スコア(0.49)
7.太極拳、気功 :医療効果スコア(0.42)
8.エアロビクス+筋力トレーニング :医療効果スコア(0.33)
9.抗うつ薬(SSRI)治療のみ :医療効果スコア(0.26)
※データ補足の注意点:the BMJの研究資料には、運動としての「ダンス」のスコアが最上位であったものの、サンプリング実数が100人規模と少ないため、除外されています。
参考引用情報:うつ病に対する運動の効果:ランダム化比較試験の系統的レビュー図表(BMJサイト)
参考情報: British Medical Journal Effect of exercise for depression: systematic review and network meta-analysis of randomised controlled trials | The BMJ
治療効果の高い運動がニュース報道で注目されない理由
うつ病や不安神経症、さらにはパニック障害などの精神疾患の治療に運動療法の大きな効果が認められる研究がこれほど多く発表されているにも関わらず、ニュース・メディアではほとんど取り上げられることなく、一般の人々の認知度が非常に低いのは何故なのか?
紀元前のギリシャ時代から、精神・心・感情の根源について探求されてきました。しかし、人間の脳機能には人智を越えた多くの謎があり、いまだに科学的に解明されていません。今後の脳科学者による研究がさらに進むことで脳疾患の発症機序が徐々に解明されていくことが期待されます。
現在、発症機序が解明されていない抑うつ症や不安神経症など、多くの精神疾患にたいして、医療機関における精神治療は、副作用リスクがある投薬治療が中心となっています。
そのため、精神的な危機から脱する緊急対応の投薬治療は有効であり、必要な治療といえます。
しかし日本においては海外でも類を見ないほど、数種類の精神薬を複数処方される多剤投与を、離脱困難になるほどの長期的な投与で、薬漬けとなる患者さんが多い現状があります。
何故に、認知症の発生リスクや精神鈍麻による副作用で通常生活が困難となるほどの投薬治療が続けられているのか、その謎に迫ります。
1.超巨大マーケットを抱える世界の製薬業界
世界の製薬業界は医療現場を対象とした巨大マーケットを抱えており、世界の経済活動の中核産業となっています。そこには、莫大なコマーシャル費用を支払いスポンサー契約するメディア業界との結びつき、国政に影響を及ぼす超優良企業による業界団体の活動などがあります。そのことが製薬企業への忖度をうみだし、「薬よりも運動の効果が高い」ということメディアが取り上げることがない実態を推察できます。
その結果、患者にとって費用のかからない運動療法のほうか、高額な薬よりも効果が高いということを、患者が認識できるニュースや広報の機会が少ない実態に結びついていると考えられます。
これまで、人類が直面した未知の疾病による生存の危機を、ワクチン開発や新薬開発で多くの人々の命が救われてきました。さらには、各分野の研究者によって、身体における免疫機能や生体機能が解明されてきたことで、疾病の源となる身体における疾病発症のしくみ・機序が明らかになってきたきました。それにより、健康な身体を維持するために必要な生活上の留意点が周知され、健康寿命も延びてきました。そこには多くの研究者のフロンティア精神による努力や、医療従事者の方々による献身的な姿に感銘する思いを強くするとともに、心から深く感謝します。
しかし、現在では精神疾患の発症機序が完全に解明されていない脳機能の修復にたいする投薬治療は、その効果には限界があり一時的な対症療法と認識することが必要です。さらには、何らかの副作用リスクが常にあることを念頭に置き、多剤服用と長期服用をなるべく避けることへの配慮が必要だといえます。
参考情報:
・医薬品業界の概況について(厚生労働省サイト)2022年8月
・日本製薬工業会協会 DATA BOOK 2024年3月
2.精神医療現場における5分診療と投薬中心療法の現実
日本における医療現場として、精神疾患にたいする治療が、5分診療で投薬治療が中心となる背景があります。それは、日本における医療保険制度の点数計算のしくみ上において、心療内科などのクリニックでは、その施設内で医師や、契約した公認心理師が時間を要する精神療法としての心理カウンセリングを実施することは、点数の低さからクリニック経営の観点で、限定的となっています。また、これと同様に、「認定健康スポーツ医」としての医師会の認定を受けた医師が「運動療法処方箋」を発行することについても、同様に経営上の問題があります。
また、患者の立場においても、運動療法のフィットネスジムなどの利用費用は、医療保険制度の適用対象ではなく、市販薬の購入と同様に確定申告で医療費控除の対象となりますが、運動期間が数か月の場合では、かなりの高額費用となります。(医療費控除には、認定健康スポーツ医が証明発行する運動療法処方箋、厚生労働省の認定をうけた「運動型健康増進施設」が発行する運動療法実施証明書が必要です)
以上のことより、医療施設の経営上において精神医療の現場では、医療保険の点数計算で最も有益な方法として、多くの患者を5分診療で効率的に診察し、投薬中心の経営とならざる負えない現状があります。
ストレスによる心身不調には投薬よりもウォーキングとジョギングです
日々の過剰ストレスで心身不調に至った時に掛かりつけの内科医院などで診察を受ける場合には、安易に睡眠導入剤や抗うつ薬などを求めることなく、医師と十分に相談して、なるべく薬効成分の小さいお薬の単剤処方で多剤服用を避けること、及び短期的な一時的服用として長期服用を避けることが、危険な副作用リスクを回避するために必要です。
そして、別途心理カウンセリングを受けて、日常の根本ストレス源への対処スキル獲得やセルフ・リラクゼーション法を獲得すること、自宅の近所をウォーキングやジョギングでリフレッシュすること、自宅でのヨガやエアロビクスで気分転換をはかるなど、日常的に身体を動かす運動の習慣づけを図ることで、心身のリフレッシュを図ることが必要です。
それによって、健康な心と体を維持することを目指せます。長谷川メンタルヘルスケアセンターは、一人でも多くの方々が、健康な心と体を回復し、幸せな生活を取り戻せるよう、心理カウンセリングを通して、少しでもお役立ちできること目指す非営利ボランティア団体です。
参考書籍:
・「運動脳」著者 アンデシュ・ハンセン氏 訳者 御舩 由美子氏 出版社 サンマーク出版
・「ストレス脳」著者 アンデシュ・ハンセン氏 訳者 久山 葉子氏 出版社 新潮社
・「もう一つの脳」 著者 R・ダグラス・フィールズ氏 訳者小西史朗氏、小松佳代子氏
関連書籍:
・長谷川メンタルヘルスケアセンター 出版著書一覧
執筆者紹介