うつ病は潜伏感染ウイルス遺伝子(SITH-1)による脳内炎症が原因【最新研究】
うつ病の脳は長期の慢性的疲労によって引き起こされるヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が関与している。
最新研究でうつ病はウイルス遺伝子(SITH-1)によって引き起こされる脳内炎症が原因であることが明らかになりました。それは、長期的なストレス環境での慢性的な身体疲労による免疫力低下によって、体内に潜伏感染しているヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が活動し始めることで、ウイルス遺伝子(SITH-1)が脳内炎症を長期的に誘発しているという、うつ病発症プロセスの世界初の発見です。その結果、長期的な倦怠感と疲労感を伴う病的疲労のうつ症状を引き起こすことが明らかになりました。この発見によって、従来の抗うつ薬などによる間接的な対症療法の投薬治療を超えた新たな投薬で、確実に発症原因を直接改善させるうつ病治療が見込めます。
目次
うつ病の原因ウイルス遺伝子が発見された
人間の染色体遺伝子解析(ヒトゲノム解析)に加え、人に寄生している細菌やウイルスなどの遺伝子も含めた遺伝子解析(メタゲノム解析)によって、人に潜伏感染している、ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)が持つ遺伝子のなかに、うつ病の原因となるウイルス遺伝子(SITH-1)が発見されたことが、東京慈恵会医科大学ウイルス講座教授 近藤一博氏の研究グループにて報告されました。
研究報告によると、『このSITH-1遺伝子は、脳のストレスを亢進させることで、うつ病を発症させる作用があり、うつ病と診断されない軽いうつ症状にも影響していました。また、SITH-1は、人を12.2倍もうつ病になりやすくさせ、79.8%のうつ病患者が影響を受けているという非常に効果の大きい遺伝子であることも分かりました。さらに我々は血清中の抗体検査によって、SITH-1の発現を検出する方法も開発しました。この研究結果により、血液検査によって、うつ病になりやすい人を発症前に知ることが可能となることも考えられます。また、このような非常に効果の大きい原因遺伝子の性質を研究することで、うつ病の発症メカニズムの解明や治療法の開発に、これまでにない展開をもたらすことが期待されます。」
参考引用情報:
東京慈恵会医科大学ニュースリリース(うつ病になりやすい体質が遺伝する仕組みを世界で初めて解明:2024年2月13日)
東京慈恵会医科大学 発表論文(ヒトウイルスにおける大うつ病性障害の強力な遺伝的危険因子の同定:2024年3月15日)
東京慈恵会医科大学 研究概要冊子(うつ病の原因遺伝子の発見)
うつ病による脳内炎症とは何か
炎症が体内の抹消組織(臓器や筋肉)で起きると、赤発(血流が増えて赤くなる)、熱感(熱を持つ)、疼痛(痛みがある)、腫脹(腫れる)などが生じ、細胞からは「炎症性サイトカイン」という小さな分子のたんぱく質が分泌されます。同様に、脳内組織で炎症が起きる脳内炎症の場合にも、炎症性サイトカインが分泌されます。
うつ病の疲労感は脳内炎症によるもの
「うつ病」による長期的な倦怠感や気持ちの落込みをともなう長期的な疲労感は、仕事での過剰ストレスとしての長時間残業や徹夜が続くことで生じる一時的疲労を感じた時に、休息することなく、無視し続けた結果、常にストレスに曝されている状態で、緊張や不安を伴い、長期にわたり慢性的に感じる疲労感は、脳内組織で炎症が継続的に生じている状態にある考えられています。
炎症性サイトカインは炎症を抑える消火器
炎症は微生物の侵入や出血による組織破壊によって起きることが多くあり、症性サイトカインの役割は免疫反応を導くと考えられています。炎症性サイトカインは、マクロファージ(貪食細胞)などの免疫細胞を集めて、炎症を起こす原因となった細菌やウイルスなどへの攻撃を促します。それによって、体内に侵入した外敵を異物として認識し除去し、破壊された組織を掃除して新たな新生細胞の再生に結びつける働きをすると考えられています。
脳内炎症では、脳内組織グリア細胞のミクログリアやアストロサイトが脳内炎症を抑えるために炎症性サイトカインを産生しています。脳の情報伝達の中核を担うニューロン神経細胞を守るために、炎症を抑える免疫機能、死滅した細胞を掃除するなどの働きを担っています。火災の時に機能する消火器の役割を持っています。
炎症性サイトカインによる疲労感は警戒アラート(炎症の初期消火の役割)
疲労感には、一時的な疲労感といえる筋肉運動をした後の疲労感や、ウイルス性肝炎などの疾病で生じる疲労感があります。その疲労感を感じるしくみは、体内に生じた炎症性サイトカインが、脳に伝わることで身体感覚としての疲労感を生じさせることになります。その疲労感は体調を回復させるために必要な、身体の休息と休養をとるために、活動量を低下させるために警戒アラートの役割があるといえます。
それは、火事の時に機能を発揮する重要な放水スプリンクラーのような消火器の役割があります。
炎症性サイトカインは強い炎症には機能しない(正常組織への過剰攻撃を抑制)
炎症性サイトカインは、運動やウイルス感染などにたいする身体機能のストレス応答によって生じる炎症を抑えるために分泌されます。しかし、炎症が強くなり過ぎると、炎症性サイトカインは、産生されなくます。それは、炎症が強すぎる状態でさらに多くの炎症性サイトカインが産生される過剰な産生で、正常細胞をも破壊する自己免疫不全疾患などに進展してしまうことを避けるためです。
それは、うつ病による長期にわたる疲労感の原因は、仮に脳内炎症が強い状態で炎症性サイトカインが産生されなくなった状態にあると推察すると、脳内炎症を抑える消化機能が働くことなく、脳内炎症が長期にわたり継続している状態にあるのではないかと考えらています。
この状態は、炎症という火事の初期状態で機能する放水スプリンクラーが、火の勢いが強い状態では、消化器として機能していないことが推察されます。
「生理的疲労感」と「病的疲労感」の違いについて
生理的疲労感とは
「生理的疲労感」とは、運動後や徹夜後に感じる疲労感で、身体が疲労回復を求める警戒アラートを発している状態の一時的な疲労感です。その疲労感の役割は、身体活動を抑える休憩・休息によって、比較的に早期に回復させるための疲労感であり、疲れを回復させ、身体の健康を維持するために必要な、誰でもが感じる疲労感といえます。
病的疲労感とは
「病的疲労感」とは、すぐには回復できないほどに数か月から数年にわたり慢性的に継続する疲労感です。それは、普通の風邪をひいたときに感じる疲労感、短期間で回復するため、一時的な疲労感であり、「病的疲労感」には該当しません。
「うつ病」による病的疲労感
「うつ病」による倦怠感を伴う長期にわたる疲労感は「病的疲労感」です
「慢性疲労症候群」による病的疲労感
「慢性疲労症候群」による強い疲労感は数か月から数年にわたり長期間持続する強い「病的疲労感」です。
「新型コロナ感染後遺症」による病的疲労感
「新型コロナ感染症」の後遺症によるとみられるの長期的な「病的疲労感」です。
うつ病の脳内炎症はアセチルコリン不足だった
東京慈恵会医科大学ウイルス講座教授 近藤一博氏の研究グループの研究報告によると、うつ病の最大の要因とみられる脳内炎症はSITH-1が導くアセチルコリン不足によって生じることが報告されています。その論文によると『報告脳内のアセチルコリンは、短期的な運動による炎症性サイトカイン産生による生理的疲労感を回復させる因子「ZFP36」を誘発して生理的疲労感の元になる炎症性サイトカインを抑制する働きをもっており、アセチルコリンが脳内炎症を抑えるコリン作動性抗炎症経路のメカニズムを担っていることが明らかとなった。』とされています。
病的疲労感を生み出す脳内炎症を抑える機能がアセチルコリンにあるることが報告されています。
アセチルコリンは抗炎症作用をもつ神経伝達物質で、脳内では神経伝達物質として働いています。
末梢組織から脳に炎症性サイトカインが伝達されると、脳内のニューロン神経細胞を維持するミクログリア細胞が活性化して、脳内でも炎症性サイトカインを産生し続けることになります。しかし、炎症性サイトカインが過剰に産生されることで、正常細胞までを攻撃するほどに暴走してしまって、病的疲労感を生み出す状態にといえる脳内炎症を引き起こさないように、アセチルコリンがコリン作動性炎症経路の働きで、炎症性サイトカインの産生と抑制します。しかし、アセチルコリンが不足することで、炎症性サイトカインの産生を抑制できないことで、脳内炎症が継続され、疲労感が長期間にわたり継続する慢性的な病的疲労に至ると考えられます。
その結果、「うつ病」による長期的な倦怠感と疲労感、「慢性疲労症候群」による長期疲労感、新型コロナ後遺症」による長期疲労感に共通する病的疲労感を生み出すと考えられます。
嗅覚異常のウイルス感染がアセチルコリン不足を導く発症機序が解明された
「新型コロナ後遺症」はウイルス感染が原因であり、同様に、「うつ病」も潜伏感染ウイルスのヒトヘルペスウイルスによる感染であり、帯状疱疹と同様にほぼ100%の人は乳児期に母親などから感染し潜伏感染の状態が続き、仕事で長引く過労状態や、DV・虐待被害や学校イジメ被害などによって長期的に継続される生理的疲労が、脳内炎症を起こし、うつ病を発症すると考えられます。
その感染経路は、鼻腔を経由して嗅覚の源である脳の嗅球細胞に感染することで、嗅球細胞が損傷することでアセチルコリンが不足することが考えられています。それによって、新型コロナ感染症や慢性疲労症候群の症状においてもうつ病症状においても、ある程度の割合で、嗅覚異常が生じていることに結びついていると考えられます。
うつ病治療にアセチルコリンを補う認知症治療薬「ドネペジル」を適用できる可能性がある
東京慈恵会医科大学ウイルス講座教授 近藤一博氏の研究グループの研究報告では、「うつ病」、新型コロナ後遺症」、「慢性疲労症候群」のそれぞれに共通する長期にわたる倦怠感や病的疲労感をともなう症状改善には、アセチルコリンの不足を補う投薬治療が有効であることを示唆しており、その候補薬として、認知症治療薬ドネペジルにアセチルコリン不足を補う機能を有する商品名「アリセプト」があげられています。
しかし「アリセプト」にも各種の副作用があり、とくに人によっては「急性腎障害」や「横紋筋融解症」という重大な副作用が認められますので、十分な副作用への警戒は必要です。
2023年11月現在において、「新型コロナ後遺症」」患者への臨床試験が行われているようです。同様にうつ病治療の適用の有効性の見極めには、同様の臨床試験が求められることから、仮に有効性と安全性が臨床試験で確認された結果が得られた場合には、数年先には「うつ病」にも適用可能となると考えられます。
抗うつ薬による対処療法ではない発症原因を除去する投薬治療の可能性がある
「従来の抗うつ剤は、セロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミンの脳内濃度を高めることで落ちた気分を上昇させるという対処療法で、うつ病が改善する患者は全体の半数程度で、抗うつ薬の治療効果のない人も多く存在しています。それに対して、病的疲労感の脳内炎症を抑えるアセチルコリンの不足を補うという、うつ病の発症原因に一歩近い投薬治療の実現に期待が持てるといえます。
すべての投薬治療には副作用がありリスクがある
人間の身体は大きな化学工場と同じてす。人の体内における投薬反応による、全ての化学反応が解明されてはいません。また、同様に感染症などによる体内における疾病の発症機序も明らかになっていないの病気が多いのが現状です。とくに脳内における神経伝達物質などの働きは神秘に満ちています。
うつ病予防は、病的疲労を生じる脳内炎症にならないように、生理的疲労はすぐに回復させることが必要
うつ病の予防には一時的な生理的疲労を無視して蓄積することなく、疲れたらすぐに休憩・休息することで疲労回復につとめ、ストレスを溜めないように、日常生活でストレスケアに努め、仕事や対人関係ではストレスを回避する対人スキルや交渉力を獲得することが必要です。
うつ病治療は、心理カウンセリングによる「ストレスケア」と「対処スキル獲得」が第一優先です
もしも、日常生活で問題が発生していまい、悩みで眠れないとか、気分が沈みがちとかで、悩みが長期化しそうな時には、安易に睡眠薬などの投薬治療に頼らずに、早期に心理カウンセリングを受けることで問題解決の対処方法を探しだし、即効性のたる疲れをとるメンタルケアをうけて、恒久的な対策が可能な対人関係スキルや仕事対処スキル獲得を図ることが必要です。
心理カウンセリングは安心安全です。投薬治療のような副作用がなく、ストレス対処のスキル獲得で健康な心身を維持しましょう。
長谷川メンタルヘルスケアセンターは、心理カウンセリングで、健康維持で少しでもお役立ちできるように活動するボランティア活動団体です。
執筆者紹介
長谷川メンタルヘルスケアセンター 代表
国家資格 公認心理師 長谷川 裕通
関連出版書籍:代表 長谷川裕通の出版著書一覧
関連参考書籍:「疲労とはなにか」ーすべてはウイルスが知っていた- 著者 東京慈恵医科大学ウイルス学講座教授 近藤博一 氏 出版:講談社ブルーブックス