唾液や血液のバイオマーカー検査で「うつ病」の重症度の診断が可能となる【最新研究】

高原でブランコに乗る女性

数値によるバイオマーカー診断で「うつ病」の早期発見と重症化の予防ができる

従来の患者本人による申告や問診による主観的な診断ではなく、化学的に唾液や血液などのバイオマーカーで「うつ病」の重症度を診断するための最新研究が各分野で取り組まれています。それにより、うつ病の初期段階に、病的疲労の脳内炎症の状態を早期に発見することが可能となり重篤化を防止できます。

高原のブランコで遊ぶ女の子

それは、職場や家庭などで長期間のストレスにさらされた本人が、長期疲労による抑うつ状態の初期症状を無視することなく、休息・休養にむずびつけるための危険回避の警戒アラートとして活用することで、早期発見ににむすびつけることができます。それにより、疲れを蓄積させないように、適切な休息・休養で、うつ病を予防し、重症化を避けることできます。

すがすがしい高原

早期発見が可能なバイオマーカー検査によるうつ病診断とは

バイオマーカーについて、国立研究開発法人産業技術総合研究所の解説によると、「バイオマーカーとは、疾患の診断基準となったり、治療の効果を判定したりするための検査項目や生体内の物質を指します。バイオマーカーは、一般の人が病院などで受ける検査のほかにも、薬や医療機器の開発段階で作用メカニズムや、医薬品を服用したことによる好ましくない反応を評価するためにも使われています。すでに生活習慣病やがんの分野ではバイオマーカーは多く使われており、今後は精神疾患などを客観的に評価できるバイオマーカーの登場が求められています。」とあります。

心電図によるバイオマーカー検査

また、バイオマーカーは1998年に米国の国立衛生研究所(NIH)による定義では、「病態生理学的な裏づけのもとに測定され、通常の生物学的過程、病理学的過程もしくは治療介入による薬理学的応答を評価しうる客観的指標」とされています。

バイオメーカー検査のバイオ検体

バイオマーカーには、体温、心拍数、血圧、呼吸数、酸素飽和度などをはじめ、血液検査における白血球数、赤血球数、血糖値、GOT、GPT、CRP、尿タンパク、遺伝子、抗体価などの数値、さらには、レントゲン画像、CT画像、MRI、超音波画像、内視鏡画像などの医用画像なども含まれます。

参考引用情報:国立研究開発法人産業技術総合研究所 産総研サイト

参考専門誌情報:精神医学 2024年2月号 特集「うつ病のバイオマーカー開発の試み」出版社:医学書院

現状のうつ病診断は問診による主観的な診断

疾患のなかでも、感染症の罹患や胃腸炎による内出血など気質的な変異性疾患のように、血液検査の数値判定による診断や、MRIによる画像診断などによる簡便検査でスピディーに、客観的な診断が可能となっています。しかし、精神疾患の多くは、その発症機序(発症プロセス)が解明されている疾患は少ない現状があります。とくに多くの人がストレス疲労によって長期的な休職状態となるような、うつ病についても、これまでは、その発症プロセスが解明されていませんでした。そのため、化学的で客観的な数値データによる診断が難しい状況にあります。

精神科医によるうつ病患者の診察場面

その結果、現状のうつ病診断には、医師による主観的な判断に頼らざるおえない状況にあり、心療クリニックなどでのうつ病診断は、患者本人による症状の自己申告や家族からの聞き取りなど、精神科医による症状の聞き取り問診結果もとに、精神疾患診断基準(DSM-5-TRの基準、またはIDC-11の基準)と照らし合わせ、その他の身体状態などの情報から総合的に判断する要領で、うつ病の診断が行われています。

問診のチェックリスト

そのため、自分の心理的な弱みを見せることになる診察を避けることや、疲労状態を無視して頑張り続けていまい、症状が悪化することで重篤なうつ病に進行するケースも多くあります。それは、早期に疲労をケアするための対策を講じるために、初期段階で早期に心理カウンセリングを受けることや、十分な休養をとるためのメンタルケアの機会を逸することに結びついている現状があります。

多忙な仕事で抑うつ気分の女性

うつ病の診断基準(DSM-5-TRTM

精神疾患の分類と診断の手引き(DSM-5-TRTM)によると、うつ病(Major Depressive Disorder)の診断基準は下記の通りです。

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは 1. 抑うつ気分、または 2. 興味または喜びの喪失 である。

  1. その人自身の言葉か、他者の観察によって示される、ほとんど1日中、ほどんど毎日の抑うつ気分
  2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退
  3. 食事療法をしていないのに、優位の体重減少、または体重増加、またはほとんど毎日の食欲の減退または増
  4. ほとんど毎日の不眠または過眠
  5. ほとんど毎日の精神運動興奮または制止
  6. ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
  7. ほとんど毎日の無価値観、または過剰であるか不適切な罪責感
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほどんど毎日認められる
  9. 死についての反復思考、特別な計画はないが反復的な自殺念慮、はっきりとした自殺計画、または自殺企画

B. その症状は臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている

C. そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的状態によるものではない

引用情報:精神疾患の分類と診断の手引き(DSM-5-TRTM

ストレス疲労を無視するイメージ

本人が気づきにくい初期症状が重篤で長期的な「うつ病」を導く

うつ病は、長期的なストレス疲労が病的疲労に移行することで、脳内炎症を起こし発症することが最新研究で明らかになっています。そのため、うつ病治療には、早期の休養や休息が最重要です。しかし、うつ病の主症状である、気分の落込み、喜びの喪失、慢性的な疲労感、などの症状が継続する状態であり、初期段階ではそれらの自覚症状を本人が気づきにくいことや、無視しがちです。

仕事で無理をし過ぎた女性

外観では問題なさそうな人であっても、心理的な長期疲労が蓄積しているストレス状態で頑張り続けているケースもあります。そのため、周囲が本人のストレスを察することが難しいため、初期段階でのストレスケアを軽視することが多くなります。その結果、初期段階に休息・休養をとることなく頑張り続けることで、より重篤なうつ病に進行してしまい日常生活に大きな障害を抱えることになります。

病的疲労のうつ病で疲れて眠る女性

バイオマーカー検査によって、うつ病の危険度や重症レベルの数値判定ができることで、誰もがうつ病の初期状態といえる病的疲労の脳内炎症に至っているのかどうかを簡単に確認できるようになると、早期対応が可能となることで、うつ病を予防することが可能となります。

バイオマーカー検査によるうつ病診断の研究現状

脳内炎症に関与するSITH-1抗体検査による診断

うつ病原因の脳内炎症の発症機序(最新研究による解明)

最新研究では、うつ病の発症原因は、ストレスによる心身疲労が長期化することで、病的疲労の脳内炎症によって、脳の機能が低下することが報告されています。さらには、そのプロセスは、子どもの頃に感染して体内で潜伏している帯状疱疹ウイルスやヘルペスウイルスのような潜伏感染ウイルス(ヒトヘルペスウイルス6[略称:HHV-6])が、長期疲労による身体の免疫力低下によって活性化することで、脳内炎症を起こし病的疲労の状態に至ります。

ヘルペスウイルスのイメージ

その病的疲労に移行する脳内炎症を誘発する、潜伏感染ウイルス(HHV-6)が脳内に感染する経路は、脳内の嗅脳に直結している鼻腔の嗅球を経由して脳内に感染します。その過程で、嗅球の神経細胞を破壊し脳内炎症を引き起こす関連遺伝子(SITH-1)の働きにより、嗅球の神経細胞を破壊し脳内炎症を引き起こします。このSITH-1遺伝子にたいするSITH-1抗体の抗体価(抗活性型SITH-1抗体価)を測定することで、うつ病の重症度判定が数値レベルで可能となることが報告されました。

脳内炎症のMRI画像イメージ

SITH-1抗体保有者は、12.2倍もうつ病になりやすい

このSITH-1抗体は、潜伏感染ウイルス(HHV-6)感染によるものであり、ほぼ全ての人が子どもの頃にHHV-6感染しているため、うつ病の診断基準を満たさない健常者の24.4%が体内にSITH抗体を持っています。しかし、うつ病と診断されたうつ病患者の79.8%がSITH-1抗体を持っておりSITH-1抗体を持っている人は持っていない人に比べて、オッズ比で12.2倍もうつ病になりやすいことになります。
さらに、そのSITH-1抗体の数値は、うつ病の重症度に比例して高くなり、その数値測定でうつ病の重症度が把握できることを表しています。

うつ病発症の原因を診断する医師のイメージ

SITH-1抗体の検査機器の開発が望まれる

しかし、現状ではSITH-1抗体の数値を簡単に測定することは困難であり、特定の研究施設における手作業による解析が必要となります。そのため将来においては、血液検査の生化学自動分析装置などのように、自動計測可能な試験機器や、唾液検査のように試験紙で簡易検出することが可能な試験方法などが、開発されることが期待されます。

バイオマーカー検査の開発研究室

参考文献:「疲労とはなにか」ーすべてはウイルスが知っていた- 著者 東京慈恵医科大学ウイルス学講座教授 近藤博一 氏 出版:講談社ブルーブックス
参考情報:東京慈恵会医科大学ニュースリリース(うつ病になりやすい体質が遺伝する仕組みを世界で初めて解明:2024年2月13日

血液検査による診断

うつ病を診断するバイオマーカーとして、血液中のPEA(リン酸エタノールアミン)の濃度を測定することで、うつ病患者を正しく診断できた確率は82%、健康な人をうつ病でないと診断できた確率は95%と、高い診断性能を示します。(HMT社ニュースリリース)
現在は、首都圏のクリニックで

血液検査の検体

参考情報:
・研究成果ニュースリリース(九州大学 、鳥取大学、広島大学共同研究):性格による層別化がうつ病血液バイオマーカーの識別性能を向上させることを発見(2020年10月6日)
・島津製作所ニュースリリース:血液検査によるうつ病の診断補助技術の実証実験 九州大学およびHMTと検査モデルの社会実装へ(2022年7月13日)
・HMT社ニュースリリース:うつ病を血液検査で簡便に診断する検査法を開発(2022年7月1日)

バイオマーカー診断における今後の課題

バイオマーカー開発における課題として、国立研究開発法人産業技術総合研究所の解説によると、『バイオマーカーの開発に求められるものには、バイオマーカー探索、特異性の確認、指標となる分子を解析する技術、測定の簡易性・高精度・標準化の4つがあります。・・・1つのバイオマーカーだけで判断できないことがほとんどなので、「医師による診察結果をサポートする」のがバイオマーカーの役割であると認識することが重要です。』

バイオマーカー開発の研究者

今後の課題として、『有効なバイオマーカーが見つかった場合、対象のバイオマーカーを解析する技術も必要で、測定方法は簡便で高精度であることが、社会実装する上で必要条件になります。その際には、医療機関や臨床検査用試薬メーカー、臨床検査会社との連携による大規模な検証試験や、検査方法と診断基準を定める「標準化」も必要になります。』とあります。

うつ病で入院している女性

現状では、うつ病のバイオマーカー検査による手法は、血液検査では特定の研究開発会社での手作業による解析が必要です。そのため、一般の血液検査のような検査分析機器によるスピーディな検査結果を得ることは難しい現状があります。また一般の血液検査の検査項目と異なり、医療保険の適用外となるため、高額費用の2万円程度の自費検査となります。今後の医療保険の適用対象とされることが望まれます。

バイオマーカー検査のイメージ


また、うつ病のバイオマーカー検査のために、最適な採血タイミングや、SITH-1抗体の抗体価を測定するバイオ検体の最適な取得方法やタイミングについて、明確にすることが必要です。そして、その検査分析の作業方法を確立し、多くの臨床検査機関で可能とすることが必要となります。

医療従事者たち

今後の課題として、バイオ検体の最適な取得と解析方法の確立、検査機器や試薬の開発によるスピーディーな検査結果を可能とし、誰でもが、容易に検査が可能となるような全国の臨床検査機関での導入、そして安価な検査を誰もが受けられる医療保険の適用対象となることが望まれます。

愛犬と一緒に高原をトレッキングする人

誰もがストレス疲労を無視することなく、危険な心身状態に至らないために、早い段階で自分の疲労度がどの程度なのかをスピディーに把握できることが望まれます。そして、無理をしている疲労状態が既にうつ病の初期状態にあるのか、あるいは重症レベルの状態なのかを、医師が的確に診断できるよう裏付ける客観的データを提供できるバイオメーカー検査が切望されています。

高原で気持ちの良い時間を過ごすハイカーの男性

そして、早期の心理カウンセリングやメンタルヘルスケアで疲れを癒せるテクニックやストレス回避のテクニックを習得することを目指せます。

長谷川メンタルヘルスケアセンターはボランティア活動団体として心理カウンセリングを通して、うつ病予防にお役立ちできることを目指しています。いつでもご相談ください。

執筆者紹介
長谷川メンタルヘルスケアセンター 代表 
国家資格 公認心理師 長谷川 裕通

関連出版書籍代表 長谷川裕通の出版著書一覧

参考引用情報:国立研究開発法人産業技術総合研究所 産総研サイト