従業者ストレスチェックが小規模事業所にも義務化される!

快適な職場のチームメートたち

従業者ストレスチェックを小規模事業所にも義務化する方針を厚労省が発表しました

2024年10月厚生労働省の職場メンタルヘルスに関する分科会で、働く人の職場メンタルヘルスを改善するために、これまで努力義務とされてきた50人未満の小規模事業場においても、従業者ストレスチェック制度を義務化することが望ましいとの答申がありました。

目次

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1)全事業所への義務化方針を厚労省が発表

2)小規模事業所における職場ストレスの特徴(隠れたハラスメント)

3)ストレス急増による職場環境の悪化現状と対策課題
・顧客・取引先からのカスハラ対策への強化(毅然とした対策方針の社内周知・社外公表)
・社内パワハラ防止・セクハラ防止の啓発活動の強化

4)「職場→家庭→学校」へと連鎖するストレス被害

5)職場メンタルヘルス向上への具体的な取組み(心理的な安全性を高める)
・従業者ストレスチェック制度の実施体制の構築

・外部委託によるストレスチェック実施(外部リソースの活用)

・社内におけるパワハラ等の通報・相談窓口設置

・迅速な対応ができるオンラインの心理カウンセリングの活用
・社内における職場ストレス対策の啓発セミナー開催による周知

6)職場メンタルヘルスで高いパフォーマンスの職場づくり

永田町の官庁ビルの玄関

2025年1月厚生労働省における審議会では、分科会の答申をうけて、50人未満の小規模事業場にストレスチェック制度を義務化し、全事業所に拡大する方針を報告書として公表しました。

それにより今後は従業者ストレスチェックを全事業所で実施することが要求されることになりますが、職場におけるメンタルヘルスケアが前進することで、職場環境が向上することが期待されます。

全事業所への義務化方針を厚労省が発表

2024年10月10日に開催された厚生労働省の分科会である「ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会」の中間とりまとめにおいて、ストレスチェックを全事業所に拡大する方針が公表されました。これまでは、小規模事業所でのストレスチェック実施は、機微な個人情報の管理の難しさや作業負担が大きいことから、努力義務とされてきました。しかし職場ストレスによる精神疾患の休職者や労災申請が急増している背景があることや、外部リソースを活用することで確実な情報管理が可能で、かつ低コストで導入できるツールなどが提供されており、徐々に小規模事業所においても環境が整ってきたと判断されています。

ストレスチェック制度のイメージ

今のところは、50人未満の小規模事業所における義務化の施行時期は明示されていませんが、ストレスチェック制度の導入準備に取り組むことが求められています。

参考情報:第7回ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会議事録(厚生労働省)

参考情報:(NHKニュース)「ストレスチェック 全事業所で義務づけへ報告書まとめる 厚労省」

小規模事業所における職場ストレスの特徴(隠れたハラスメント)

小規模事業所の特徴として、従業者間のコミュニケーションが1対1の関係に近い濃密な閉ざされた人間関係となりがちです。そのような濃密な人間関係の職場において、パワハラやセクハラの問題行為の傾向にある上司などが存在すると、そのハラスメントの被害は周囲からは見えにくく、隠れた形で続くため、その職場ストレス被害は非常に大きくなります。

大声で叱責するパワハラ上司

その背景として、他の部門と情報交換することが難しい閉ざされた職場では、上司の言動が「パワハラに該当する問題行為だ」と正しく認識できない状況に陥る恐れがあります。それは、上司の罵声や怒鳴り声を浴びせられる状況にたいして、「悪いのは私のほうだ、仕事ができない私を上司が注意するのは当然だ」という間違った認識が生まれることで、自分自身を責めることになり、そこから抜け出すことよりも、耐えることを選択し、より大きな職場ストレスをため込むことになります。

理不尽な職場ハラスメントに耐える女性スタッフ

多くの同僚が常に情報交換できるような規模の職場であれば、上司の異常性を正しく認識できます。さらには、大声や怒鳴り声を浴びせる行為自体が、周囲から問題視されるため、上司がパワハラなどの非常識な行為を自重することになります。それは多くの従業者が業務する職場であれば周りの従業者による「衆人環視」が機能し、パワハラなどの非常識な言動へのブレーキとなります。

ストレス急増による職場環境の悪化現状と対策課題

顧客・取引先からのカスハラ対策への強化(毅然とした対策方針の社内周知・社外公表)

東京都は2025年4月1日に「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」を施行します。社会が働く人のストレスを重視しています。
とくに、顧客や取引先からの過剰要求などによるカスタマーハラスメントの被害急増が社会問題となっています。コンビニやスーパーの販売スタッフや、あらゆる業種の組織において直接消費者や顧客に接する業務を担う、営業スタッフ問合せ窓口コールセンターのスタッフは、顧客クレーム対応による心理的疲労度は高く、非常に強い職場ストレスをうけることになります。

カスハラにさらされるコールセンターのスタッフ達

最近の社会傾向として、個を尊重する社会となったことで、あらゆる偏見のある個人意見であっても自由に発信できる社会風潮が高まり、SNSでの誹謗中傷の急増と同様に、コンビニ店舗内でスタッフに土下座を要求するクレーム客など、過剰要求をする消費者や顧客が急増しています。

コールセンターのオペレーター

職場スタッフを顧客の過剰要求によるストレス被害から守るために、企業経営者はカスハラ対策として、カスハラ対策の組織方針と対応ルールを明確にし、その業務マニュアルを社内に徹底すると同時に、広く社外に公表し、過剰な要求にたいして法的措置をもいとわないという毅然とした対策方針を顧客や一般消費者に浸透させることが必要です。

参考情報:東京都労働局「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」(令和7年4月1日施行)

社内パワハラ防止・セクハラ防止の啓発活動の強化

同じ職場で従事する就労者が少ない閉ざされた小規模組織では、周囲の就業者による衆人環視のブレーキが効かないことで、目立ちにくい状況でパワハラなどの問題行動がエスカレートする傾向が強くなります。とくに従順な新入社員、性格的に相手の理不尽な言動に反論できない温厚な従業者などへの攻撃が長期的に継続される危険性が高いという特徴があります。

職場ハラスメントで悩む女性スタッフ

このような小規模組織においては、社内におけるパワハラ防止やセクハラ防止の啓発活動を強化し、被害者となる恐れのある立場の弱い従業者が、問題行為への認識が持てるように、「パワハラとは何か」などの情報提供による注意喚起や、部下育成の立場にある従業者への社内啓発セミナーを開催するなどの取組が必要です。

職場ストレスで疲れた男性スタッフ

「職場→家庭→学校」へと連鎖するストレス被害

特に、職場ストレスは組織のパフォーマンスに大きく影響することは明らかであり、職場ストレスをケアされることなく放置された従業者は、その職場ストレスを家庭に持ち帰り、家族へのDV行為や児童虐待で発散することが多くなります。その状態は職場から家庭へのストレス連鎖といえるものです。

子どもへのDV行為で職場ストレスを発散する父親

そのことから、職場経営者やチームリーダーの役割は、一方的な押し付けによる指示命令ではなく、メンバーが業務上で抱えてしまった問題点を早期に把握し、改善することへのサポートが可能なように常日頃からの双方向の信頼関係をベースとしたチームコミュニケーションが必要です。

学校でイジメをうける男の子

さらには、家庭で虐待をうけた子どもが、学校で他の生徒への「嫌がらせ行為」「仲間はずし」「SNSでの誹謗中傷」等の行為でストレスを発散する学校イジメへと結びつきます。それは、家庭から学校へのストレス連鎖です。この職場から家庭へ、そして家庭から学校へと、「職場ハラスメント→家庭DV・児童虐待→学校イジメ」の連鎖であり、これは「ストレス環境連鎖」といえるものです。この学校イジメが原因で、学校で虐めを受けた生徒たちの不登校など、職場ストレスが出発点となる環境連鎖が、大きな社会問題へと結びついている恐れがあります。

不登校の子どものSOSイメージ

参考情報:子どもへの虐待体験による心理的ダメージとケア(長谷川メンタルヘルスケアセンター)

職場メンタルヘルス向上への具体的な取組み(心理的な安全性を高める)

職場で働く従業者がそれぞれが持つ能力を存分に発揮して、組織・チームとしての高いパフォーマンスを実現するためには、従業者それぞれがお互いを信頼しあい、目指す目標に向かって、多くのアイデアや意見を躊躇することなく発言しあえる職場環境が必要です。そのためには多様性ある個の意見を、排斥することなくお互いを尊重し合い、活発な組織改善への取組みが可能な、心理的安全性が求められます。

心理的安全性の高い職場のチーム


職場メンタルヘルスを維持するために、職場経営者やチームリーダーによる活発なコミュニケーションの重要性とあわせて、職場メンタルヘルスのためのしくみを構築し、従業者のストレスを迅速にケアすることが必要です。

健康的な笑顔のコールセンターのスタッフ達

参考情報:『「心理的安全性」が職場のストレスを開放し、高い組織パフォーマンスを発揮する』(長谷川メンタルヘルスケアセンター:2023.9.10リリースのニュース・コラム)

従業者ストレスチェック制度の実施体制の構築

企業組織の他部門から切り離された少人数の職場や、閉ざされた小規模事業所での従業者が抱える職場ストレスは把握しずらいことから、特定上司からのパワハラや顧客からの過剰クレームのカスハラでうける職場ストレスを抱えた従業者の体調不良や精神的変調は、本人の問題だとされることが多くなり、とくに小規模組織やチームでは職場パフォーマンス低下という形で組織運営に大きな支障をきたすことになります。

従業者ストレスチェックのイメージ

それを防ぐためには、従業者が抱えるストレスを早期に把握することは大きな職場メンタルヘルスとして、最重要課題です。そのためには、従業者ストレスチェック制度を導入し、定期的にすべての従業者のストレス状況を把握し、問題を抱えた従業者への業務面と心理面での組織サポートに結びつけることが必要です。

外部委託によるストレスチェック実施(外部リソースの活用)

従業者ストレスチェック制度を組織内で定期的に実施するには、厚生労働省が提供するWeb版ストレスチェックチェックを活用して、自社で独自に実施することも限定的には可能です。
しかし法律で規定された機微な個人情報の取り扱い規定や、制度を運用する実施者を限定する規定があり、その制度実施とデータ取扱いは医師、看護師、公認心理師などに限定されています。

医療スタッフ

そのため、経営者が自ら実施し、従業者の回答データを閲覧・ハンドリングすることは違法な行為となります。
そのため、従業者がスマホで回答するなどストレスチェック実施は、公認心理師が実施する外部リソースに委託することが、情報管理作業負担が無い形での最適なストレスチェック制度の導入です。

外部機関の心理カウンセリングサービスをうける女性と対応する男性カウンセラー

社内におけるパワハラ等の通報・相談窓口設置

従業者が上司や先輩からの非常識なハラスメント的な言動にさらされた時に、相談できる窓口や相談できる担当者が存在することは心理的に安心できる支えとなります。

相談窓口での対話イメージ

特に小規模組織では、常習的なパワハラやセクハラで困った時に、通報したり相談したりすることができる仕組みを整えていることは、従業者にとって心理的安全性の高い職場といえます。

社内のセクハラ相談窓口

また、それは企業組織として、職場メンタルヘルスを重要視し、社内ルールとしてパワハラやセクハラなどの非常識な行為を排除する姿勢を明確に宣言することになります。

迅速な対応ができるオンラインの心理カウンセリングの活用

職場のメンタルヘルスを向上させるために、従業者が心理的な職場ストレスを受けた時に、すぐに相談できる、国家資格の公認心理師が対応する心理カウンセリングとしてのメール相談やSNSチャット相談を、有効活用することが望まれます。現在は、大半の従業者が個人スマホなどを利用しており、その個人スマホでいつでも相談し、ストレスから抜け出すたの最適なアドバイスを得られる仕組みは、個人がパフォーマンスを発揮するための大きな職場サポートといえます。

スマホでチャット相談をうける女性スタッフ

また、LINEビデオ、Zoom、Teams などでのオンラインビデオ通話で、オンライン心理カウンセリングで相談することで、出向くことなく、よりリアルタイムなアドバイスを得られることが可能となります。
最近の自宅でのリモート業務が増えたこともあり、より容易に心理カウンセリングをうけて、ストレスへの対処方法についてのアドバイスを得られる環境が整っています。

パソコンでのオンライン心理カウンセリングの様子

組織経営として、迅速に心理カウンセリングの相談対応をしてくれる外部機関と契約しておくことは、従業者のストレスを早期にケアし、安心感をもたらす有効な手段となります。

社内における職場ストレス対策の啓発セミナー開催による周知

個人や社会の一般的認識は時代と共に大きく変化しています。パワハラやセクハラの定義や概念自体にも変化があり、顧客からのカスハラの内容も社会通念の変化に応じて大きく異なってきた現状があります。

高圧的な顧客への対応で疲れたコーヒーショップの女性店員


そのような時代変化のなかで、従業者が受ける職場ストレス対策への取組みとして、何がパワハラで何がカスハラなのかを、常に最新情報でアップデートし、従業者にたいして、職場メンタルヘルス維持の社内啓発セミナーなどで周知徹底することが重要課題となります。

クレーム顧客に謝罪するカスタマーセンターのスタッフ達

例えば、採用面接時にエントリーしてくる新卒者にたいして、数年前まで横行していた「圧迫面接」的な質問や個人の信条・理念を引き出すために「尊敬する人物は誰か」「父親の職業は何か」などの常識外れの質問を投げかける企業組織は、SNSでブラック企業だと投稿されてしまい学生から敬遠される事態に陥るケースがあります。

パワハラ防止啓発セミナー開催風景


変化の激しい時代において、従業者が生き生きと働き続けられる安心できる職場環境づくりのために、最新の情報を社内に常に周知する取り組みが求められます。

職場メンタルヘルスで高いパフォーマンスの職場づくり


これからの社会変革の波を乗り越えられる高いパフォーマンスを発揮できる組織は「個人の多様性を尊重し、色とりどりの多様性ある個人の発想による創造的集団組織」です。

そのためには、個の能力を自由に発揮できる心理的安全性の高い組織運営のために、組織経営者には職場メンタルヘルスを維持するための取組みが求められます。

長谷川メンタルヘルスケアセンターでは、厚生労働所のストレスチェック制度導入ガイドに準拠した形で、事業所における作業負担のない形で定期的な実施を可能とする導入コンサルティングと実施代行、そしてストレスケアのメール相談、ビデオ相談などで企業組織および就労者の方々を支援する非営利活動をしています。

参考情報:ストレスチェック制度導入ガイド(厚生労働省)

執筆者
長谷川メンタルヘルスケアセンター

代表:国家資格 公認心理師
長谷川 裕通󠄁