虐待体験による心理的ダメージは大きく、適切なトラウマケアが必要です
■トラウマ体験による心理的影響
もしあなたに、大きな別離体験や虐待などのつらい体験があれば、早い段階でこころのケアが必要です。
その体験を乗り越える努力が必要となります。過去のトラウマ体験などの影響として、精神的に落ち着かないなどいろいろな心理的症状がでたときに、薬に頼るだけでは完全に乗り越えることは困難といえます。あなたのこころを癒してあげる作業が大きな克服のカギとなります。
■児童虐待の世代間連鎖
子どもの頃に受けた親からの虐待による「こころの傷を」かかえたまま、普段の生活に頑張っている人々は多くいます。虐待体験を持っていることは重要な意味があります。その虐待を子育てにおける普通の「しつけ」として認識していると、自分が受けた「しつけ」を、そのまま我が子への養育に反映させてしまいます。それが、虐待の世代間連鎖といわれるのです。親から受けたことを我が子に繰り返すことを防ぐには、「虐待」と「しつけ」の違いを認識する事です。しかし、それを頭では認識し、「いけない事」と理解しつつ、「またやってしまった」と自己嫌悪におちいり、悩む方が大半です。イライラによりついつい「カッ」となってしまった時に、それをコントロールできるこころの安定が必要です。こころが安定できない神経症やうつ病状態での子育てはとても危険であるといえます。それには、ストレスをためない生活が必要です。
虐待はとてつもなく大きな犯罪行為です。あなたが思う以上に、その子どもの一生を破壊してしまう恐ろしい行為です。こどもの幸せな人生を願うべき親が、その子どもに辛い人生を歩ませる権利はありません。しかし、虐待行為のその時に、自分自身を制止することは難しいかもしれませんが、冷静な今なら、あなたの行為の恐ろしさに気付くことはできるはずです。あなたの行為によって、その子どもが一生涯にわたり、どのように苦しみぬくことになるのかその恐ろしい心理的障害を確認しましょう。
■心的外傷後ストレス性障害(PTSD)
虐待体験を受けて育った子どもには、戦争体験や自然災害を受けた場合以上の大きなこころの傷を受けることになり、トラウマとなって残っている。それは適切な治療を受けずに放置されて成長すると多くの性格傾向の障害や人格形成の障害となります。
とくに、その虐待体験をあるきまった場面に遭遇すると、それが引き金となり、当時の虐待場面を再体験をし、その恐怖で正常な社会生活が送れない状態に陥ることになる。これがPTDSというものであり一生涯継続されるケースもあります。
これは身体的虐待のみならず、精神的ないじめでも、計り知れないトラウマを生み出すことになる。あなたにとっては、ちょとした無視やへそまがりのつもりでも、本来であれば周囲から愛されて、あたたかく見守られながら成長すべきこどもが、うける虐待影響はあまりにも大きすぎることを認識すべきである。
■解離性同一性障害
あなたが、もし虐待をおこなっているなら、その子を精神病に陥らせ、一生を破滅へと追いやる行為であることを認識させられる障害といえます。これは現在注目を集めている心理障害であり、治療を受けていない膨大な数にのぼる発症者の存在が推測されている障害です。
旧病名では多重人格障害と言われたもので、虐待体験との関係が徐々に明らかとなっています。多くは暴力による身体的虐待やレイプなどの性的虐待をうけている時の異常な恐怖がもとで、逃れたいという本能により自己催眠を誘発し、自分に代わって耐えてくれる別の自分になりきってしまう。繰り返しの虐待で、無意識のうちに別の人格をつぎつぎと作り出してしまい、本人とは別に夢遊病のような無意識な活動をそれぞれの別人格が巻き起こし、自分自身をコントロールできない状態となるケースもあります。
最近になって、その症状が注目をあび、その発症メカニズムが徐々に解明され、過去の診断では多くの解離性同一性障害が精神分裂病と診断されたと考えられています。最適な治療方法は、現在のところ確立されているとはいい難いのも事実ですが、主として2つのケアの方法が考えられています。一つは、それぞれの人格を顕在化し各人格との個別カウンセリングを繰り返し、一つの人格として統合することを目指す方法。しかし、解離の人格が多い場合など、状況によっては顕在化作業で、新たな人格を解離誘発させる危険性があります。
もう一方の治療方法としては、人格が解離していても、その潜在的な領域でつねに他の人格が機能しているという視点のもとに別人格を個別に顕在化させない方法。初期の段階においては、効果が高いと考えられています。いずれにしても精神科医による専門的な治療が絶対要件となり、心理カウンセリングによる単独でのケアは難しく、多くの労力と治療期間が必要となります。
■解離性同一性障害の発見(自己診断)
自分自身が受けた過去の虐待体験を客観的な事実として受けとめることが重要です。そのきっかけとして、自分自身の性格が他の人とはすこし異なる点に気がつくことが今後のケアへの第一歩となります。
しかし虐待体験による心理的影響でみた障害のうち解離性同一性障害の場合には初期の段階で認識しないと、いろいろな社会的問題を引き起こし、本人の社会生活だけでなく、家族や周囲を巻き込む恐ろしい障害といえます。虐待体験をはっきりと認識していないとか、幼児のころの記憶がないなどで自分自身がその体験を認識していない状態で障害が進行すると最悪のケースとなります。早い段階での自分自身が虐待体験を持っていることへの客観的な認識が重要となります。
医師が診断する場合の基準である米国精神科診断基準(DSM-5)「解離性同一性障害の診断基準」が、初期診療の判断基準とされてます。
ちょっとおかしいと思ったら、自分自身で、日常生活における自分の生活体験の状態から解離性同一性障害の可能性を計測できる、「解離性体験スケール(DSE)」で、その傾向の有無についての自己診断が可能です。
■パーソナリティー障害
母親との間で築き上げた安定した母子関係が、人生最初の信頼関係の確立であり、成長過程における友人や周囲との人間関係構築モデルとしてその子どもの人格に生き続けることになります。
しかし、まったく社会生活が困難となることはありませんが、本人をはじめその家族や周囲との関係が正常に機能せず、日常生活における対人関係で多くの問題を発生させているケースがあます。
虐待うけて育った子どものこころの傷が放置されていると、安定した人間関係の構築モデルがなく、その子どもの人格形成に大きな影響を与え正常な対人関係が結びにくい傾向が強くなるなどの人格や性格の異常が認められることになります。
米国精神科診断基準(DSM-5)では、パーソナリティー障害の全般的診断基準として、下記6項目が上げられています。
A.その人の属する文化から期待されるものより著しく偏った、内的体験および行動の持続的様式を持つ。この様式は以下の領域の2つ(またはそれ以上)の領域に現れる。
(1)認知(すなわち、自己、他者、および出来事を近くし解釈する仕方)
(2)感情性(すなわち、情動反応の範囲、強さ、不安定性、および適切さ)
(3)対人関係機能
(4)衝動の制御
B.その持続的様式は柔軟性がなく、個人的および社会的状況の幅広い範囲に広がっている。
C.その持続的様式が、臨床的に著しい苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引起している。
D.その様式は安定し、長期間続いており、その始まりはすくなくとも青年期または成人早期までに遡ることができる。
E.その持続的様式は、他の精神疾患の表れ、またはその結果ではうまく説明できない。
D.その持続的様式は、物質(例:薬物乱用、投薬)または一般身体的疾患(例:頭部外傷)の直接的な生理学的作用によるものではない。
またDSM-5では、その特性により、以下に分類している。
A群
妄想型パーソナリティー障害
ジゾイドパーソナリティー障害
失調型パーソナリティー障害
B群
反社会的パーソナリティー障害
境界性パーソナリティー障害
演技性パーソナリティー障害
自己愛性パーソナリティー障害
■心理カウンセリングによる虐待体験トラウマケアの方法
◇第一ステップ(ポジティブイメージの獲得)
過去の辛い体験を乗り越えるには、まず、第一に、自分自身を肯定的にとらえ、自分の素晴らしさを実感し、自分の自信を高めてあげることが必要です。これがメンタルケアの第一ステップであり、トラウマという密林を切り開き乗越えるために必要な、「心のリソースを拡げる作業」といえます。これがトラウマケアに最重要な、「自分自身のポジティブイメージの獲得」です。これはトラウマケアへの大前提といえます。自分自身を肯定的にとらえることができていない人にとって、過去の整理であるトラウマケアというジャングルに立ち入ることは禁物です。あなたがポジティブイメージを確実に獲得できるまで時間を費やします。そして、それが獲得できたとき、第二ステップといえる「トラウマケア」に移行できます。
◇第二ステップ(心の書庫に片付ける作業)
過去の虐待体験への早急な挑戦は禁物です。忘れようとしている気持ちはあなたを守ろうとしている今を生き抜くあなたの適応力なのです。たとえ、あなたの体のなかに別の自分が存在しているような気がしても、それはあなたを守ろうとしているあなた自身の一部なのです。そして過去を整理し、その出来事が自分の出来事ではあるけれど、新聞の3面記事を読むように冷静に動揺することなく「あなたの言葉」でそれを表現できるようになった時、あなたなりにトラウマの整理ができたといえます。そして、その整理した出来事を、あなたにとって「良くない出来事のアルバム」に貼り付け、それをあなたの「心の引出し」の奥にしまい、鍵をかけておきしょう。
過去の体験は、消しゴムで消すことはできません。ケアをすることなく、それを忘れることで記憶を消し去り封印したつもりでも、それは無意識レベルで生き続け、あなたに悪影響を与え続けます。それは、まさにあなたの足元に散らばる「トゲのあるイバラ」のようです。忘れたつもりでも、ついつい足元のトゲを踏んでしまいます。そして傷つきます。メンタルケアは、足元に散乱している多くのイバラを拾い上げ、整理して、思い出したくない体験記憶として「良くない出来事のアルバム」に整理し、こころの図書館に片付けることです。それは、開架本棚ではなく、書庫の片隅の引出しでいいのです。それも、鍵のかかる引出しです。この整理ができることで、その出来事から影響を受けることはなくなります。
■心の安定を求めてスキル向上の自己研鑽を応援します
トラウマケアにはあなたのこころの成長が必要です。しかし、カウンセリングによるサポートが可能なトラウマの程度が重要となります。それはあくまでも、自分自身を見つめる作業が可能な人が対象となります。精神分裂傾向の人にとっては自分を見つめなおす洞察はさらに症状を悪化させますので、精神科医による治療が中心となります。
ご自身の被虐待体験を認識していない場合、自分自身を否定的にとらえることが多くなります。その結果、対人コミュニケーションや対人関係において「なんとなく生きづらさ」を感じている場合があります。このような場合は、カウンセリングによるケアの対象です。対人関係で非常識な関わりを持たれたときに、うまく相手に自分のストレス状況を説明する技術、やめてほしい相手の言動を相手が受け入れてくれるように伝える応酬話法、相手が受け入れてくれるように自己主張するアサーションスキルの獲得などをサポートします。
快適な社会生活を維持するためには、つねにスキル獲得の訓練が必要です。あなたにストレスをもたらす相手の言動をうまく封じ込めたり、うまくかわしたりするすコニュニケーションスキルは、進学や就職などにより社会生活の場面や環境が変わるごとに新たな場面に適応するためのスキル更新が必要です。その時に、自分自身の被虐待体験を認識していて、充分にケアできていないと、対応できないこと自体が自分に責任があると考えてしまいがちです。しかし、非常識な人も世の中には多く存在します。自分が悪いのではなく、相手が悪いという考えを持てない状況にある場合も、カウンセリングの対象となり、早い段階でのケアが必要です。それには、まず自分自身の認識の偏りに気付くことが第一歩です。自分の性格がちょっと変っていると感じても社会生活は営めます。だれでも、少しくらいは変な部分を持っています。それが普通です。また、その程度が大きいことに自分で気付いたとしても、大丈夫です。気付いた時があなたが成長し、変化することができる始まりです。常にトレーニングで新たなことを学べばよいのです。むしろ、自分の素晴らしさに気づき、自分自身の人間性と人格を受け入れて、ありのままの姿で、自分自身の光輝く心の中の宝石を、思いきり輝かせましょう。そのために自己を受け入れて成長させましょう。歳を重ねると自分の性格を変えられないと思いがちですが、それは、自分自身を変えようとする前向きな考えを持てるか、否かです。こころを成長させること、自分自身を磨き、自分を高めることは一生涯続けるべき自己成長の営みだからです。