うつ病ケアのオンライン精神療法

person using macbook

オンライン心理療法はうつ病ケアにも有効性がある

 コロナ禍によって、医療の臨床現場においてもビデオ通話にオンライン診察が活発に行われてきましたが、うつ病ケアのオンライン精神療法にについての有効性を示唆する海外の研究報告が多くあります。とくに欧米諸国ではオンライン心理カウンセリングが積極的に展開されており、医療保険制度の対象ともなっています。

日本では臨床心理の専門家である公認心理師の心理カウンセリングは、医療行為としては認めてられません。しかし、米国ではベトナム戦争の時代から、悲惨な戦争体験を伴う紛争地域から帰還した多くの兵士たちへのPTSDトラウマ・ケアやメンタルケアのニーズ急増が社会問題とり、精神科医によるケア対応だけでは対応することが難しい状況にあった背景があります。その結果、国家資格を持った心理セラピストによる心理療法にも医療保険が適用されてきました。そして、その延長線上にオンライン心理カウンセリングにも医療保険適用の対象となっています。これは、医療先進国のアメリカにおいて、うつ病ケアのオンライン精神療法の有効性が認められている証といえます。

doctor doing an online meeting with a patient

 そのような時代背景があり、さらには国土の広い米国では遠隔地に居住する退役軍人にたいするトラウマケアの必要性から、高齢者となった退役軍人の大うつ病患者に対する遠隔医療が多く実施されており、そのオンラインによる遠隔精神療法の有効性の研究が実施されてきました。その結果、対面治療に比べ劣っていないことを多くの研究が示唆しています。その中で、2015年に、米国・Health Equity and Rural Outreach Innovation CenterのLeonard Egede氏らが明らかにした研究報告があります。それは、米国の地理的に孤立した退役軍人などの、大うつ病の患者との対面治療が難しい高齢者の治療障壁を取り除くのに有用と思われるという結果が、Lancet Psychiatry誌2015年8月号(オンライン版2015年7月16日号)の掲載報告されています。

具体的には、無作為化非盲検非劣性比較試験にて、本検討は、高齢退役軍人のうつ病に対する行動活性化療法について、対面療法に対して遠隔療法の非劣性を立証することを目的とし、対象は2007年4月1日〜2011年7月31日にRalph H Johnson退役軍人医療センターおよび地域の関連クリニック4施設を受診し、大うつ病のDSM-IV基準を満たした58歳以上の退役軍人(主に男性)であった。遠隔治療群または対面治療群に無作為に割り付けられ、いずれにも行動活性化療法が8セッション行われた。主要評価項目は、老年期うつ病評価尺度(GDS)、ベックうつ病評価尺度(BDI)(12ヵ月後のスコアがベースラインから50%低下)、DSM-IV構造化面接(SCID)臨床医版による治療反応(12ヵ月の評価でうつ病ではないと診断される)であったとされています。

解析対象は、4セッション以上の治療を終了し、すべての評価項目を測定されたper-protocol集団で、遠隔治療群と、対面治療群との有意差はなく、オンラインによる心理療法は対面方式と同様の効果が得られたことを証明しています。(参考引用 ケアネット 2015/09/11 「うつ病の精神療法、遠隔医療でも対面療法と同程度」より)

photo of boy video calling with a woman

また、最近の研究でも同様の遠隔リモートによるオンライン心療の有効性が認められた研究報告は多くあり、最近では2023年12月に発表された、台湾・亜洲大学のYin-Hwa Shih氏らによる研究で、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した研究があります。そこでは結果、遠隔医療介入はうつ病患者の抑うつ症状の軽減QOL向上に効果的であることが報告されています。(Annals of Medicine誌2023年12月号の研究報告より)

具体的には、研究対象は、うつ病と診断された患者の遠隔医療介入の治療効果を調査したランダム化比較試験で質的評価には、Joanna Briggs Instituteのチェックリストを用いたもので、適格基準を満たした17件の研究(2,394例)を分析に含め、遠隔医療介入は、うつ病患者の抑うつ症状(標準化平均差[SMD]:-0.44、95%信頼区間[CI]:-0.64~-0.25、p<0.001)およびQOL(SMD:0.25、95%CI:-0.01~0.49、p=0.04)に有益であることが示唆されています。