新入社員のメンタル不調と離脱を防ぐ【理想と現実の失望対策】

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7月は新入社員の配属ストレスを防ぐ時期です 

新入社員のメンタル不調を防ぎましょう

 7月は多くの企業で新入社員が3ヵ月間の仮採用期間を経て、正社員になる時期です。さらには新入社員研修を終えた時期でもあり、いよいよ正式に配属先が決まり、新入社員として最初の実務が開始されます。この正式配属では、ある種のカルチャーショックによる職場ストレスを受けてしまうことが多くあります。それは、心身症や抑うつ傾向が強くなる適応障害的な状況に至るケースもあります。この時期は入社後に研修などで頑張り続けてきて、そして正式な配属後においてもさらに頑張り続けて心身の不調をきたす場合があります。そのことから5月連休後の体調不良となる「5月病」に引き続き、7月以降も新入社員のメンタル不調に注意すべき節目の時期といえます。この時期は新入社員にとっても組織側にとっても重要な時期といえます。
 企業組織にとっては、新たな人材がスムーズに組織に溶け込み、大きな戦力となって活躍してくれることを強く期待しています。いっぽう、新入社員にとってもワクワクしながら、これから自分が活躍できる舞台となる部署に正式に配属され、その部署の一員として、いよいよ自分自身のキャリア形成とスキルアップのために、そして人生の働き甲斐を探求し、企業組織の方向性に合致した自分自身の自己実現を目指す、最初の業務が始まる時期が7月といえます。

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 多くの新入社員が実際の業務に本格的に携わる7月以降は、配属部署による適応障害に注意すべき時期です。新入社員研修で企業組織としての経営方針や経営計画、目指す長期ビジョンの詳細を理解し、新入社員にたいする期待とミッションを認識し、ワクワクした希望に満ちた気持ちで高いモチベーションで現場に配属されます。その時に、新しい組織になじめない等の理由で、ストレスを受けてしまうことがあります。そのストレスを早期にセルフで実施可能なメンタルチェックで、自分のストレス状況を正しく認識し、適切に対処することが必要となります。

 この配属時に間違った認識として、新しい環境になじめない自分が悪いなどということを考えないでください。組織として新入社員のメンタル不調を予防することは、組織全体のパフォーマンスを十分に発揮させるための大きな課題となっています。配属部署になじめない自分に問題があるのだという間違った認識は自己肯定感を低下させることになり、本来の能力を発揮できなくなります。さらには何事にも我慢が肝心だという認識がさらに自分自身を追い込むことになり、さらに大きな職場ストレスをため込むことになります。ただ一人で孤独に我慢する選択をしないでください。

簡単にストレスに気づく方法

 新入社員としてのワクワクした将来への夢と希望がある反面、新たな環境に順応できるだろうかという環境への不安もあります。また、頑張りすぎるタイプや、コミュニケーションにストレスを感じてしまうタイプなど、ストレスを受けやすい性格特性の方々もいます。しかし、それらのすべての社員がポジティブな気持ちで常に前向きのモチベーションを維持して業務に取り組める職場環境づくりが、全ての企業組織経営者に求められています。働きやすい職場環境を提供することは、経営者の責務といわれています。あなたが、もしもストレスを感じて本来の自分のパフォーマンスを発揮できない状態に陥っている場合、それは自分の努力が不足していると考えることや、自分に責任があると考えてしまうことを避けてください。
 組織でうけるストレスには、パワハラ、モラハラ、マタニティーハラスメント、さらには顧客から受けてしまうカスタマーハラスメントもあり、それらへの組織対策が経営者に求められています。ご自身に問題があるから、ストレスを感じてしまうのではありません。大切なこと、自分のストレス状態を適切に認識し、そのストレスを分析し、職場環境における問題を、組織メンバーの一人ひとりが、より働きやすい環境へと改善する取り組みは常に組織として必要です。
 そのためには、まずはセルフによるストレスチェックを実施してみてください。厚生労働省で推進するセルフチェックがあります。5分間で簡単にストレス状況を把握することができます。また、家族の方々が本人を見ているととても心配だという場合には、家族などの周囲の人が第三者の視点でチェックし、ストレス状況を推測することができます。ぜひ利用してください。

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厚生労働省 職場ストレスのセルフチェック
 厚生労働省での取組みの一つに働く人のメンタルケアを促進するサイトとして「こころの耳」というポータルサイトがあります。そこでは職場におけるメンタルケアの具体的な方法、ストレスから自分自身を守る方法、セルフチェック方式で簡単に自分自身のストレス状況をグラグ確認できるオンラインツールのしくみ、などが提供されています。また同様に家族が本人の異変に早期に気づくための家族チェックも同様な仕組みとして提供されています。活用をお勧めします。
参考引用(1)厚生労働省 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳
参考情報(2)5分でできる職場ストレスチェック (厚生労働省 こころの耳ポータルサイト)
参考引用(3)家族支援用の職場ストレスチェック (厚生労働省 こころの耳ポータルサイト)

厚労省サイトこころの耳ポータル
「参考引用:厚生労働省 こころの耳 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト 広報ポスター」

新入社員の離脱を防ぐ

7月の部署配属で、新入社員の方々が陥りやすい間違った認識として、「経営層ではいいことばかり言っているが、現場の社員の受け止め方は大違いだった」などという受けとめ方をしてしまい、自分の就職先の選択が間違っていたという考えに至ってしまい、配属後の業務モチベーションを大きく失うことに結びつくことがあります。

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また、配属された部署の業務に自分が望む業務ではないという認識からくる失望感や、自分が入社前に想像していた仕事に配属されなかった事での失望感、さらにはその企業組織を入社前に抱いていた企業風土ではないことに対する失望感など、理想と現実のギャップに直面することでの失望感などから、早期に退職・離脱することを安易に決断する新入社員もいることは事実です。このように、部署に配置されたときに、自分が考えていた組織実態とは異なるギャップで大きな失望を受けてしまい、客観的に状況分析をすることなく、早急に離脱してしまうケースは、新入社員本人にとっても、企業組織にとっても防ぐべき大きな新入社員にたいする人事制度上での大きな問題です。
このような正式配属で新入社員が抱いてしまいがちな失望感について、特に経営ポリシーと現場とのギャップについて、新入社員としての受けとめ方の注意点、および企業組織としての要配慮事項について参考となる対処方法をお伝えします。是非ともご活用ください。

経営方針の理想と現実のギャップへの対処

経営方針の理想と現実のギャップ
 新入社員研修では、企業理念、経営方針、福利厚生、人事サポート事項など、についての詳細レクチャーを受けることになります。その内容はリクルート段階で事前把握している詳細情報に合致していることを確認できる機会となり、自分自身の選択が間違っていなかったことを再確認する機会となります。しかし、正式に部署に配属されて、現場実態を把握することになります。その時に、現場から受け取る印象に大きな差異を感じてしまい、大きな失望に結びつくことがあります。特に、自分のキャリア形成にとって、目指す最先端の領域で活動できると考えていたにも関わらず、現場の業務実態は旧式で時代遅れの業務テーマが中心である場合には、さらに大きな失望が生まれます。
 例えば、最先端の機械学習やAIによるシステム開発の研究をしていた学部の研究室出身の新卒採用者の場合は、すぐにでも同類のシステム開発業務に関わりたいと考えるのは当然です。しかし実際の部署に配属されると、その研究がされていると説明を受けていた部署ではトライアル段階で、システム納入実績がないなどの実態に驚き失望してしまう場合があります。それは経営方針ではそのAIシステム開発領域のウエイトを高める今後の長期計画がたとえ存在していても、実際は少数の社員がトライアル開発をしている程度では、自分の研究した成果をさらに高めることが難しい現状があることを部署配属で把握してしまった場合などが該当します。

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【新入社員としてのギャップへの失望】
 就職前のリクルート段階で情報収集できるインターネットのホームページなどに公開されている組織情報は、取引先企業や業務実績なども含めて、対外的に好印象となる情報を掲示している場合が多く、外部からその企業組織の現場実態を的確に把握することは難しい側面があります。とくに、ITシステム系のスタートアップ企業などでは、経営理念や今後の経営計画などは存在するものの、財務諸表を公開している場合は少なく、さらには事業分野別の受注・納入実績の時系列推移なども、会社案内の印刷物に詳細公開されている場合は少ないといえます。
 そのため、経営方針と現場の乖離・ギャップがあること、正式配属されて現場と経営者の考えのキャップ、経営の理想と部門の現実のギャップなど、その他、組織全体の目指しているモラルと現場実態の差異、人に優しい経営ポリシーが現場に浸透していない(浸透することを取組中段階など)等々、その組織実態を現場で実感した時や、他の先輩社員から活動実態を聞かされた時など、大きく失望してしまいます。それは、現場実態がこのレベルでは自分自身の目指すキャリア形成が困難だ、ここでは、自分の力を発揮できない。ミスマッチの状態なので、さっさと退職して自分の力を発揮できる他の企業組織を探そうと決意することが想像できます。

【新入社員としてのギャップ分析の方法】
 新入社員として、入社した企業組織の現場実態に直面して、ショックを感じることは多かれ少なかれあります。それは、自分が選択してエントリーした企業組織像と実像との間にある種のギャップを感じることは当然だといえます。その背景には、自分自身の選択した企業組織を理想化してしまう心理的な動きも影響します。自分のキャリアアップにふさわしいと認識して選択した就職先の実際の配属先にギャップがまったく無いという事はむしろ稀だと言えます。
 そこで受けてしまった失望感から、一人で早急に結論を導くのではなく、周囲と活発なコミュニケーションを図り、先輩社員からの情報収集や同期社員との情報交換で、多くの情報を収集し、その情報をもとに客観的に分析し、その上で決断するプロセスが必要となります。そして、そのプロセスにおける3つの重要ポイントがあります。
(1)そのギャップのレベルがどの程度なのかを社内で情報収集して分析すること。
(2)そのギャップは過去・現在・未来の視点でどのように変化しているのかを時系列で分析すること。
(3)今後のギャップ解消にむけて、その企業組織の成長に期待できるのか否かを予測すること。

そして、自分の行動を決断することになります。明らかに大きすぎるギャップがあるのか、まったく経営層の方針が現場に周知されていないのか、などをまずは分析します。そして、そのギャップは過去、現在を比較すると急激に改善されているのか、あるいは、まったく同じレベルなのか、企業組織の成長力、資本関係にある親会社やグループ会社の状況、現在の受注状況と今後の将来性、など多角的に分析し、更なる躍進が見込めるのか、社内にたいする周知がいろんな場面で実施されており、今後の方向性が随所で打ち出されていて、今後のギャップ解消にむけた展開に期待できるのかなどを分析し、判断することになります。


【新入社員としてのキャリア形成の上司相談】
 分析の結果、その企業組織の将来性の危うさや危機感を感じられるものがあれば、安易に離脱することを決断することなく、まずは新入社員のキャリア形成の面談タイミングで、自分の感じたギャップにたいする認識と自分の分析を「相談」という形で、伝えておくことが必要です。それにより、今後の配置転換の可能性、将来の自分自身に対する育成計画、さらには、実は幹部候補生として期待されており、多方面の業務部門における経験を求められていることが背景にある部署配属であった、などが明らかになる場合もあります。
 そして、その面談結果も含めて総合的に判断して、その企業組織の将来性と自分のキャリア形成を考慮し、今回の配属でのギャップ認識を補償する将来性に賭けるのか、あるいは妥協できる期間をその企業組織で就業し多方面の経営を積むことにするのか等、自分の将来のキャリア形成を見定めて慎重に認識を積み重ねることが必要となります。その結果、今後の自分自身のキャリアアップにおいて多方面のキャリアを身につける機会をチャンスと認識するのか、あるいは早期に他の企業組織への第二新卒枠でエントリーをするのか等、今後の方向性を慎重に決断することになります。

企業組織のサポート体制と心構え

 部署に配置されたときに、自分が考えていた理想と現実のギャップにたいして失望し、客観的な状況分析をすることなく、早急に離脱決断をしてしまうケースは、新入社員本人にとっても、企業組織にとっても防ぐべき問題といえます。そのためには、新入社員にたいする適切なサポート体制としての人事制度が求められます。それは新入社員の配属時期に、継続的に各階層の個別面談によって、新入社員のモチベーション変化やストレス状況の変化を的確に時系列把握し、新入社員のキャリア形成にむけた目標面談制度やキャリア形成面談と連携実施することが必要です。
 そのために、3つの異なる階層による新入社員へのサポートを目的とした面談が望まれます。第一の階層には日々の業務を指導するOJTに関わる先輩との業務遂行を中心とした業務面談、第二に部署責任者による今後のキャリア形成を踏まえたキャリア育成面談、そして第三として、部署業務から離れた心理的なストレス状況とモチベーション状況を把握する目的の心理カウンセラー的な立場の人事総務的なメンタル面談です。

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新入社員への配属前後の個別面談サポート

新入社員の配属による理想と現実のギャップに失望することなく、高いモチベーションを維持するためには、経営の理想像と現場における現状ステータスについて、正しく認識できる新入社員研修での適切な情報開示と下記のような配属前後の手厚い面談制度が重要となります。

  • 人事による配属前の面談:本人に期待するキャリア形成の方向性を示し、本人が目指す合意でできる方向性を精査しておくこと。
  • 部署長による配属後の面談:組織が期待する本人の役割とキャリア形成の方向性について提示し、本人が合意できる方向性を導き出し、ポジティブに業務遂行が可能なモチベーションを醸成すること。
  • 直属OJT先輩による業務面談:モチベーションが維持されていることを確認し、業務状況から本人のストレス状況や周囲とのコミュニケーションの状況を業務指導のなかで把握すること。
  • 心理カウンセラーによる業務メンタル面談:面談によるストレスチェックを目的として、業務へのモチベーションを含めたメンタル面の状態変化を把握し、仕事への慣れ、業務ストレス状況、組織への悩みなどの、状況を把握する。

 現在の人材不足の状況は各産業界において大きな課題となっており、新入社員が大きな組織のパフォーマンスを発揮するために活躍できる職場環境の整備が求められています。また今後は、さらなる働き方改革の推進、法改正によるパワハラなど各種相談窓口の設置推進など、働く人々が快適に高いモチベーションを維持するための仕組みづくりが求められています。
 将来を担う新世代の新入社員たちが、いきいきと活躍できる組織制度の整備を進めていただくことで、新時代の若者たちが安心して高いパフォーマンスを発揮できるように育てていただく事を切にお願い致します。この情報が少しでもお役立ちできることを願っています。
by 長谷川裕通