親の否定的な言葉が子供を苦しめる「静かなる心理的虐待」

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日常的な子供への否定的なネガティブ言葉は、子どもの脳を傷つける精神的な児童虐待です

家庭内での我が子への児童虐待は、暴力による身体的虐待だけではなく、思いやりに欠如した、「何気ない言葉」による心理的虐待が急増しており、子どもの自尊心を奪い取り、子どもの成長を妨げ、精神的がダメージを子どもに与えてしまう、暴力と同様の子どもの健やかな成長を妨げる危険な児童児童であるとの認識が必要です。



言葉による心理的な児童虐待の現状

 ここ最近、児童相談所への通報件数は年々増加しており、我が子への暴力行為による「身体的虐待」や非常識な暴言による「心理的虐待」、そして育児放棄の「ネグレクト」や児童への「性的虐待」は、卑劣な犯罪行為だという「社会的認識」は確実に定着し、児童虐待防止への社会の関心は高まっているといえます。また、児童虐待の通報義務化による地域住民からの通報が増えたことや、家族自からの公的機関への相談が増えたことで、児童相談所における相談件数は過去最高を年々更新している傾向にあり、児童相談所における児童虐待を疑われる案件への対応件数も急増している状況にあります。
 また、児童虐待にたいする関心の高まりとして、長谷川メンタルヘルスケアセンターにおけるご相談内容においても、児童虐待を避ける観点での子育てにおけるストレスケアを目的としたものや、親御さん自身のお子さんへの関わり方について、自ら見直すことを目的としたものが増えています。

参考情報:厚生労働省(令和4年9月):令和3年度 子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第18次報告)
参考情報:NPO法人 児童虐待防止全国ネットワーク:令和3年厚労省 児童相談所 相談件数推移

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 しかし、そのような関心の高まりの現状においても、我が子へのしつけと称する異常な暴力行為によって、我が子を不幸な結末に追いやる悲しい重大事件の報道が後を絶つことはありません。その背景には、児童相談所による相談対応件数は増加しているものの、全ての虐待現場から子どもを救い出すことがきていない現実があります。さらには、将来を夢見る若者たちへの卑劣な性的虐待が隠ぺいされてきた芸能事務所による虐待事件が報道されたことで、その被害トラウマに苦しむ被害者たちの存在が明るみに出ました。その結果、被害者たちへの同情と卑劣な組織への批判の声が多く寄せられたことや、経済界では多くの企業による該当広告の中止という社会的措置が取られたことからも、あらゆる形の虐待は卑劣な犯罪行為であるという、海外の児童虐待防止の先進国と同様レベルの「社会的認識」が、適切に形成されつつあることが理解できます。

子どもの自尊心と自信を奪い取る「静かなる心理的虐待」の恐ろしさ

 最近の事件報道を受けて、「身体的虐待」や「性的虐待」などの児童虐待は犯罪行為であるという社会的な認識が広まりつつあります。しかし、同様に子どもの健全な発達を阻害する「静かなる心理的虐待」※脚注1によるの危険性についても、「社会的認識」の形成が急務だといえます。この「静かなる心理的虐待」とは、明らかな大声による暴言を伴う我が子への暴力的な関わりとは異なり、近隣の地域住民からは見えにくい形で進行する日常的な言葉による心理的虐待です。これは、静かな親子関係の家庭ではあるものの、我が子にたいして日常的に否定的な言葉によるネガティブな関わりを持つことによる「心理的虐待」です。いわゆる毒親といわれる養育者による子育てに多くみられ、常に子供の行動に批判的でネガティブな言葉を投げかける養育者の関わりです。
 このような養育者には、虐待の認識が全くないことがさらに問題を大きくしています。それは、暴力をふるうこともない、暴言をはくこともない、子どもを無視したり、育児放棄することもなく、ただ社会性を身につけさせようと、本人の問題を指摘しているだけだという認識があります。自分は暴力をふるって子どもに虐待をしていないという認識です。しかし、常に否定的なメッセージを送り続けることは、心理的な虐待です。子どもの身になると親からほめられた経験は無く、毎日嫌味を言われているように感じます。また、テレビドラマを観ていても、スポーツ観戦をしていても、買い物などで外出していても、子どものためになると考えて、目につくすべての人の欠点を常にあらさがしのように指摘して、子どもに伝える親御さんがいます。そのような親からネガティブな情報を毎日伝えられることは大きな苦痛であり、完全な自己否定に陥り、大きなストレスが蓄積される危険性があります。その結果、無力感が拡がります。

※脚注1:静かなる心理的虐待・・・長谷川メンタルヘルスケアセンター代表 長谷川 裕通による独自の呼称であり、暴力や暴言を伴わない穏やかな言葉による児童虐待を表現しており、この隠れた児童虐待による極めて大きな精神的被害から子どもを守り、健康的な子どもの発達のために、その防止・啓発の心理学用語として用いている。

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 脳神経学で、児童虐待の危険性について明らかにされています。マーチン・H・タイチャー氏(ハーバード大学医学部精神科准教授)によると、脳が急速に発達する乳幼児期から児童期にかけて、子どもが精神的・身体的な虐待にさらされる直接的な児童虐待や、暴力の現場を日常的に目撃する間接的な児童虐待であっても、常に恐怖や不安感が伴う生活環境といえます。そのような生活環境における脳神経学的な影響として記憶をつかさどる海馬の発達が阻害されること、偏桃体に影響がでること、前頭葉の発達が遅れるなどによって、情緒不安定、学習障害、切れやすい人格、低い協調性などの性格や人格形成において問題を生じることになります。虐待を受けて育った子どもたちの、その後の人生において、発達障害、アスペルガー、境界性人格障害、抑うつ傾向、神経症、ADHD傾向の多動性、などの人格形成における特異傾向が高まります。その結果、不登校、引きこもり、非行や反社会的行為、などの行動傾向が強まる要因の一つとなるリスクについて、指摘されています。それによって、その子が成人してからの健全な社会的活動が難しくなることが考えらます。あなたの、子どもに恐怖と不安で心理的にコントロールしたり、自己否定に結び付く否定的なネガティブな言葉による子育ては大きなストレスを与え、その子の健全な発達を阻害し、人格傾向や行動傾向に偏りを生じることに結び付く恐れがあり、その結果として、将来においてその子が社会で大きく活躍する機会を奪い取ることになります。それは一生涯にわたる重荷を我が子に背負わせる犯罪行為といえます。
 しかし、子どもの脳の成長と回復力は大きく、親御さん自身の子どもへの関わりを改め変化させることで、お子さんに健康的でポジティブなパワーを身につけることができるようになります。今すぐに具体的な緊急脱出の手順にそって、親御さん自体が自分自身を見つめ直し、自分の人間性を成長させる、親としての人格形成の変革が必要です。

参考情報:長谷川メンタルヘルスケアセンター関連ページ:虐待体験による心理的ダメージ 
参考文献:癒されない傷ー児童虐待と傷ついてゆく脳(著者:マーチン・H・タイチャー

欠点さがしの「そんなの、ダメダメ!」は、自己否定と無力感の洗脳となり、自由な発想力と将来を奪いとる

 子どもにとってはストレスが大きく、健康を害することになる、「静かなる心理的虐待」の関わりの特徴は、親から見て問題だと思われる子どもの問題点を指摘し、それを改善しようとすることに焦点をあてた関わりです。古くは昭和初期の軍国主義的な世代に育った親から育てられた子供たちが親になり、子をもった時に、親から受けた子育てを自分の子どもに自然に実践することから派生しています。その関わりの特徴は、暴力を伴うスパルタ的なしつけではなく、子どもの日常行動のすべてにおいて、親が持つある種の尺度から外れる我が子の「行動」、「言葉使い」、「立ち居振る舞い」、「服装や持ち物」、「容姿や外見」、「交友関係」、「余暇の過ごし方」など、我が子の全てについて、ネガティブなコメントをメッセージとして伝える関わりです。たとえば、「その服装のコーディネートは良くないね。報道された犯罪者の服装と同じだよ。バカだと思われるよ。」とか、「その話し方では判らないよ。もっと上手に話しなさい。頭が悪いと思われるよ」、交友関係については「あの友達は、体形が太っているね。もっとスラっとした友達いないの。あなたも変だと思われるよ」などという、子どもの行動や考えすべてを否定的にとらえるメッセ―ジを送り続けます。
 さらには、親に褒めてほしいと頑張ったテストでいい点を取ったとして報告しても、ほめる事は一切せず、「もっといい点を取ってる子もいるでしょう。それに、間違ったところを見直しなさい。それで満足せず、もっと頑張りなさい。」それは子どもをもっと伸ばそうとしているとはいえ、子どもにとっては終わりのないチャレンジを要求されており、どれだけ頑張っても自信に結び付くことはありません。また、クラブ活動で強豪校に勝ったとしても、子どもの努力をねぎらう言葉もなく、試合でミスをした部分を大きく指摘し「もっと確実な技術を身につける必要がある。努力しないと、レギュラーメンバーを維持できない。もっと頑張れ。」という問題指摘の関わりで、ほめることは子どもにとって甘やかせることだという、心理によるものです。

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 このような関わりは、小さいころ頃からの積み重ねによるもので、日常的に子どもを否定し、子どもの主体性や自律性を奪い去り、未来を切り拓く自信に満ちた力となる自己効力感を得ることができない状況となります。

 また、進学や就職先など将来の進路選択についても親の価値観を押し付けることで、子ども自身への無力感自己否定に満ちたネガティブな傾向が強まることに結び付きます。その結果、自分の目指す将来への閉ざされ感が増してしまい、心の底から湧き上がる未来に立ち向かうためのパワーとなる「ワクワク感」が消失することで、自分の目指す夢と希望が見えなくなり、大切な思春期の課題である自我の確立が困難な状況に陥ります。このような子どもの進路選択において、親の古い価値観と考えを押し付けて、親が若いころに実現できなかったスポーツの世界や就職・職業などで、自分の夢を子どもで実現しようとする親の身勝手な代償行為の犠牲となる子どもたちといえます。

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 このような欠点指摘の関わりは、子どもを「ほめて伸ばす」式の子育てとは対極にあるといえます。子どもを一人の人間として尊重し、その人格形成において自己効力感のセルフリスペクトを育み、自由な発想によって未来を切り拓くアイデアを生み出す人格形成を目指す関わり、とは対極にあるといえます。これからの予測不能で社会課題の多い変革に満ちた時代を切り拓き開拓するために必要なパワーを身につけることは困難となります。大声で怒鳴りつける暴言を伴うことはないけれど、静かな親子のコミュニケーションではあるものの、決して我が子をほめることなく常に欠点と問題点を指摘し続け、子どもの自信を奪い去り無力感で自分自身の力なさを感じることになる関わりです。それは、親によっては都合の良い従順で親の価値観に沿った考えが形成され、結果的に親の言いなりになる子どもに育て上げるという関わりです。
 その結果、子どもの自我が強くなる思春期を経て親への反抗心から「不登校や社会的な引きこもり」となるケースや、社会に出てからの失敗や困難に遭遇し、無力感と自己否定感が大きく、一度くらい失敗してしまっても、新たな発想とアイデアで再び困難に立ち向かう力が育てられていないこと等から、一度の失敗ですぐに「社会的な引きこもり」に結び付く一つの要因となる恐れもあります。このような、静かな関わりではあるけれど、子どもの精神発達において、きわめて問題の大きい「心理的児童虐待」だと断言できます。
 なお、不登校や社会的な引きこもりの原因は、親御さんによる関わりが全ての原因ではありません。その背景には、学校イジメや職場でのブラック企業によるパワハラなど、さらには犯罪事件や事故に巻き込まれたケース、健康上の理由、さらには本人の広い多様性、人間性や知的レベルが高い場合など、多くの要因が複合的に存在しています。それらの複合的に作用する要因の一つとして、親御さんの否定的な関わりが悪影響を及ぼす恐れはありますが、その解決には複合的に絡み合う要因への理解と、社会全体で取組むべき重要課題とする視点が必要です。

自信をつける「ほめて伸ばす」子育てが、その子の未来を切り拓く自信と発想力を育てる

 
 否定的な問題指摘によって成長を促そうとする考え方は、古くはスポーツの世界においても、過去には一般的だった「一つひとつの問題点を克服すれば勝負に勝てる。」「ほめることは必要ない。必要なのは欠点指摘だ。」「勝利には、気合ですべての欠点を克服する精神力が必要だ。」など、子どもの幼い心を無視した非科学的なスポーツ・コーチング思想の影響を受けている子育てだといえます。現在では、高校野球などスポーツの世界においても「ほめて伸ばす式」のコーチング方法や、チーム内の過酷な競争を煽るのではなく、チームの雰囲気を重視して「お互いに感謝しあい励ましあうチームづくり」などが注目されています。昭和の少年野球の時代のようなスパルタ的な叱責中心のコーティングは欧米などパワハラ・セクハラ防止の先進国では非常識なコーチングとなっています。

参考情報:長谷川メンタルヘルスケアセンター関連ページ:育児不安への悩みと虐待世代間連鎖

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 これからの変革の時代を切り拓くために、必要となる新たな発想力とアイデアで未来社会に貢献する独創的な人格形成を目指す子育てが必要となっています。親の持つ時代遅れで未来社会に通用しない古い価値観を子どもに押し付けて、子どもの素晴らい長所を無視して短所にフォーカスをあてることから、すぐに緊急脱出することが必要です。長所をほめて伸ばす式の美点凝視で、否定的メッセージを送り続ける子育てから緊急脱出する時が来ています。小さなお子さんを養育する親御さん、児童期や思春期のお子さんと日々接する親御さんたちにお願いします。我が子の才能を引きだす美点凝視の精神で、お子さんの人格を尊重し、お子さんの長所がさらに広がりをみせて短所をすぐにカバーできるようになります。その子が持つ素晴らしさである長所を見つけ出し、それを言葉で常に伝えてください。そしてお子さんたちは新たな人類だと考えて、子どもたちの新たな価値感を信じて、価値観の違いは当然だと考えて、お子さんの核心的な考えや発想から新たな価値観を吸収してください。そして、お子さんを「ほめて、ほめて、ほめちぎり」「子どもをホイホイ、その気にさせて」「自由な発想を生み出す未来社会を切り拓くパイオニアを育てている」のだと考えて、さらには「子どもに親が育てられている」という考えでお子さんに、教えてもらおうとする姿勢で接していただけることを心から願っています。 by 長谷川 裕通 

参考文献:Amazon書籍:家庭の児童虐待 緊急脱出の手順(著者:長谷川 裕通) 
参考文献:Amazon書籍:母親の児童虐待 制止と脱出手順:(著者:長谷川 裕通) 
参考文献:Amazon書籍:DV親の児童虐待 衝動抑制の手順(著者:長谷川 裕通)

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